Notes

意見書

令和６年3月１5日
請求人　伊藤理紗

　原処分庁意見書によれば、「事業主は事前申告を受けておらず、休日出勤するよう指示、命令した事実も認められない。また、請求人以外の事務職員は休日出勤することはなく、発症当日請求人が行っていた業務に緊急性は認められない」との記載がされているところ、請求人は、労働保険審査請求書における申告のとおり、事業主たる道下氏に対し土日勤務の事前申告を行っており、道下氏は、当該申告を認識しながらも請求人の申告を無視し回答を行っていなかったに過ぎない。また、道下氏は、請求人以外の事務職員に関し、道下氏自ら休日出勤を呼び掛けており、道下氏の原処分庁への説明は明確な虚偽であることは明白である。
　最高裁判決（平１２．３．９）は、労働基準法３２条の｢労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない｣としている。また、東京地裁（平３０．３．２８・労経速２３５７号１４頁）は、「時間外労働が常態化していたことからすると、代表者がこれを承認したか否かにかかわらず、少なくとも会社の黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払の対象となる労働時間に当たる」としており、これらを踏まえれば、本件に関しては、道下氏の承認の有無にかかわらず、請求人の土日の休日勤務を含めた時間外労働が、道下氏の黙示の指示に基づき常態化していたか否かが問題となる。
然しながら、道下氏から請求人に対し、休日勤務に関する指示または承認の回答が一切なされないまま請求人の休日勤務が実施され、同時に休日割増賃金が支給される状況が常態化していたことは、令和４年１１月から令和５年５月までの給与明細によって明らかである。即ち、道下氏から請求人に対する休日勤務の指示または命令がなくとも、道下氏は請求人の休日勤務の常態化を認識しており、請求人の休日勤務を黙示の状態で承認したことは明白であり、道下氏の行為は、黙示の承認または黙示の指示に該当すると見做されるべきものである。なお、道下氏が請求人の勤務に関する事前申告を認識しながら、一切の回答を行わなかった点について、同様の事案が令和５年３月にも生じているので、当該資料を提出する（疎明資料１）。
以上により、本件に関する業務起因性、業務遂行性は認められる。