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センター試験は壮大なファンタジーなんだ
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「英国面」という言葉をご存知だろうか．問題設定はそれなりに正しいのに，その解決方法に妙な，あるいは変態的な「お国柄」が出ることがあるのだが，特に我々日本人にとっては英国人のそれが面白おかしく感じられることが多く，揶揄して「英国面」と言う．僕のお気に入りの「英国面」は，英国人が缶詰を発明しながら当初は缶切りを発明しなかったという事実だ．
だいたい大洋に面した島国というのは逃げ場がないぶん発想が先鋭化するものだ．変態的な「お国柄」なら我が国も英国に遅れを取るまい．僕は大学入試センター試験もそんな「日本の英国面」のひとつであると思う．
何事も始めた時にはそれなりの理由があるものだから，センター試験にも始めた理由はあるのだろう．受験生にとって「公平」な試験を，センター試験を課す大学全体で満遍なく実施するという理想は，わかりやすいし，試験で学力は測れないことに目を瞑れば文句のつけようがない．センター試験の前身である共通一次試験は1970年代までの「入試地獄」を緩和する目的もあったので，センター試験にも受験戦争緩和という目的があったに違いない．僕は入試地獄世代ではないが1973年生まれなので往時の雰囲気はよく分かる．
僕が「日本の英国面」として取り上げたいのは，このセンター試験の「公平な実施」のための対策が，実際には「受験生が不公平感を持たないようにする」対策になっていることだ．守秘義務があるため公開はできないが，センター試験の運用マニュアルは分冊も合わせると全盛期の月刊アスキーぐらいの厚みがある．特に目を引くのは，プログラマが言うcatch節つまりは「例外処理」の部分で，今では情報処理技術者試験以外で目にすることもなくなったフローチャートが延々と書かれている箇所もある．
例えば，試験会場が雪に埋もれ，雪かきのために試験開始が10分繰り下がったとしよう．予定通り到着していた受験生にとっては，試験開始が10分繰り下がり，試験終了も10分繰り下がるだけだ．
ここに5分遅刻した受験生が来たとしよう．この受験生は，遅刻の理由を問われる．もし遅刻理由が「寝過ごした」「道に迷った」など本人の責めに帰する理由の場合，この受験生の解答時間は5分削られる．試験開始は10分繰り下がっているので，試験開始には間に合うのだが，仮想的に遅刻したものとして扱う．
一方で，交通機関が遅れたため15分遅刻した場合，試験開始繰り下げの10分を超えているため，救済措置が取られる．これは本人の責めに帰さない理由の場合すべてに適用されるので，例えば電車内で痴漢にあって警察に事情を説明してきたとかでも構わない．より極端な例を挙げると，大雪で1時間遅刻しそうで，かつ試験開始が2時間繰り下がっていたことを知らずに途中で引き返したとしても，再受験の資格が与えられる．
センター試験は，日本の端っこに住んでいても，音痴でも，スポーツが駄目でも，ジャンケンに弱くても，ブサメンでも，着ていく服がなくても（全部自分に当てはまる），とにかく「お勉強」能力だけで勝負できる一生に一度か二度程度しかない機会だ．生きていたら毎日直面せざるを得ない「運」という要素が可能な限り，いや過剰なまでに取り除かれた環境 — つまりはファンタジーであるが — それが今日のセンター試験なのだ．
…という仮説で自分自身を納得させつつ，今年もセンター試験の監督をつとめた．

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