Notes

ダークチェリーの思い出

　雨の日曜日。今朝は家内が出勤なので平日と同じように「おはヨーグルト」を二人分作った。冷蔵庫に一昨日買ったダークチェリーのデニッシュがあったのでそれも温めて半分ずつ。

　それで思い出したのが、初めてダークチェリーのデニッシュを食べた時のこと。
寒い冬、一月だったか、滋賀県の中学生が東京に高校受験にやってきた。東京に来て入学するなどもってのほか、と反対していた父親が受験だけなら、と一緒に来てくれた。
　試験は3次の面接まで4日間ほどかかり、合格するとかなり長く宿泊しなくてはならない。中学の担任の先生が「東京青山会館」という教職員共済の提携施設を紹介してくれた。
場所は南青山。田舎の中学生にはまぶしすぎる都会だった。
　試験は朝早くから午後まであるので、お昼の用意をしていかなければならない。当時も青山通りの今と同じ場所に「タカキベーカリー (アンデルセン)」という洒落たパン屋さんがあったので、そこでダークチェリーのデニッシュと何かを買って持っていくことにした。初めてのデニッシュは試験の時に食べたのだ。濃い甘さのダークチェリーがサクサクのパイのようなデニッシュとクリームと一緒になり、この世にこんなに美味しいものがあるのか、と感動した。
　夕食は青山会館の食堂に父と一緒に入ったら、たぶん東京では普通の値段なのだろうが、メニューにかかれた金額が高いので驚いた。父の顔を伺うと、やはり高いと思っているのだろう、メニューを上から下までじっと見ている。往復の旅費と宿泊代だけでも相当の負担になっていることは子供ながらわかっていたので、何が一番安いかを探した。
　すると、夕食メニューなのに、「オムレツ」と書かれてあり、比較的安めの値段だった。家でも炒めた玉葱と挽肉が中に入ったおかずオムレツは母親の得意料理で、私も大好きだったので迷わず、「オムレツとライスにする」と言った。父も同じものを頼んだと思う。
　東京のオムレツは外側にケチャップ・ソースがかかっているだけでなく、中の具にもしっかりケチャップで味付けされていて、さすが東京は違う、と感心した。
　私が昼間試験に行っている間、父は明治神宮に参拝して、合格祈願をしてくれていたらしい。その御利益か、試験は実技も学科も合格して面接に進むことができた。合格したらどうするかは考えていなかったが、発表の時自分の番号が貼り出されているのを見て涙が出た。
(終)