Notes

「っていうことが、あってさ」

　フィッシュベルの海辺、二人横並びに座って、沈みゆく太陽を眺めていた。
　話していたのは、キーファの話だ。
　もう長いこと会っていない、いや、会えるわけのない、親友の話。
　なぜその話をするつもりになったのかは、分からない。
　しかも、相手はよりによって別世界からやってきた男だ。

「身勝手だよな、ホント」

　いや、だからこそだったのかもしれない。
　自分のこれまでをほとんど何も知らない、彼だからこそ、話したくなったのかもしれない。
　きっと、欲しかったのはフラットな回答。
　ずっと悩んでいたことに対しての、第三者の答え。
　それが欲しくて、こんな話をしたのかもしれない。

　しばらく、沈黙が続く。
　無理もない。突然呼び出した上に、こんこんと昔話を語り続けたのだから。
　それでいい、元より返事は期待していなかったのだから。

　ふっ、と笑い、手をついて立ち上がろうとする。

「……7主君は」

　その時だ。
　ずっと沈黙していた8主が、ゆっくりと口を開いた。
　何を言い出すのだろう、と思いながら、続く言葉を待つ。

「もし、今から僕がキーファくんのように、君の前からいなくなるとしたら」

　そこでわざとらしく言葉を切り、ふと笑う。
　そして、ゆっくりとこっちを向いて、言葉を続けた。

「追いかけて、くれますか？」
「そんなの」

　咄嗟に言葉が突いて出る。
　馬鹿なことを言うな、そう続けるつもりだった。
　けれど、続けられなかった。
　答えなど既に分かっている、そう言わんばかりの目がとても寂しそうで。
　とてもじゃないが、目を合わせることなんて出来なくて。
　顔を、背けてしまう。

「……すみません、意地悪なこと聞きましたね」

　そんな自分を見て、8主は再び笑って、ゆっくりと立ち上がる。
　そして、まるで何も聞かなかったように、そのまま立ち去っていった。
　砂を踏み分ける軽い音と、静かな波の音。
　それを聞きながら自分は、立ち去っていく男の後ろ姿さえも、目を背け続けた。

　聞きたかったことは、結局何だったかわからなくて。
　代わりに手にしたのは、真綿で首を絞められるような苦しさで。
　どうしようもなくなって、後ろに倒れこんで。

「どこまで、僕を」

　もう居ない親友に向けて、そんな言葉を吐いた。