Notes

おかあさんがアルコール依存になったのには、いろいろと理由があるのでしょう。

しかしアルコール依存は立派な病気です。

理由があるからといって、治療しないでよい病気ではありません。

それは、アルコール依存症という病気が、専門家の力なしで自力で治すことのできる病気ではないこと、周囲の人間にも多大な迷惑と影響を及ぼし本人の体や心を確実にむしばむ病気だからです。

おかあさんは、周囲の人間と円満な関係を築いていると、自信を持って言えますか。
家族となんのトラブルもなくあたたかく交流していると言えますか。

周囲とうまくいかない、友達がいない、家族と疎遠になっている、
その原因がすべて、自分とアルコールとの関係にこそあると考えられませんか。


どうか自分の状態を冷静に見つめ、一日も早く専門病院に行きましょう。

今のままではおかあさんは近い将来、自分の健康を失うだけでなく、今よりもはっきりと周囲から孤立することになります。

そうなることを私は心配しています。

このように、こどもに言われることによってあなたは傷つくでしょうか。
親身になってくれる誰かに言われて、相手に不快感や不信感を持つでしょうか。

自分は依存症ではない！自分のお金で呑んでなにが悪い！と典型的なアルコール依存症の「否認」の症状を見せるでしょうか。

私はあなたの娘として生まれ、今年で３４歳になりますが、私が最初に記憶している
あなたのブラックアウトの記憶はわずか４，５歳です。
あなたはミシンを踏みながらお酒をのみ、幼い私たちに夕飯を作ることもなくそのままリビングで酔いつぶれました。
帰宅した父と、夜の道をファーストフード店まで歩いて行ったことをよく覚えています。

それから私が家を出る２１歳までの間に、どれだけのトラブルがありましたか。

酔って長男のお迎えに行けず、長女にまかせ、またしばしば酒を買いに行かせたこと。
酔って食事が作れず店屋物を取り、寝ている間に自分のラーメンが伸びたと娘を殴ったこと。

夫婦げんかの末に、背中を怪我し、手首を切り娘に手当させたこと。

酔ってトイレや廊下を汚したこと
酔って夫婦喧嘩をし、たくさんの食器を破壊し、こどもに片付けさせたこと
酔って階段から落ち、尾てい骨を骨折したことを、急いでいて落ちたと嘘に塗り替えたこと
酔って坂道を走ったことで、犬のひっぱる力に勝てず転んで顔に大怪我をしたこと
酔って鉢植えを倒し、顎から首にかけて大きく切ったこと
二日酔いで仕事に行けないのに、嘘をついて仕事を休んだこと

酔って泣きわめき、隣の奥さんに介抱されたこと
酔って接客しようとしたために、お客が黙って帰ったこと
酔って庭で昏倒していたのを友人に発見され自宅まで連れて帰ってもらったこと
酔って友人宅で転倒し骨折したのに、急いでいて打って骨折したと嘘に塗り替えたこと
飲み会に参加している間に犬を脱走させ、周囲に心配をかけたこと


挙げればきりがありません。








特に私が１０代の頃、私はあなたの酒の相手になって話を何時間も聞き、なぐさめ、はげまし、汚物を片付け、割れた食器を片付け、風呂に入れ、寝かせました。
今にして思えばこれはすべて間違った行動だったと思います。


お母さんを心配してとった行動が、すべてアルコール依存症を助ける結果になっていたのです。こういう行動を、イネイブリングというんだそうです。


この前、私は、お母さんにお酒をやめてほしいと言いました。
もしこのまま飲み続けて、肝臓を傷めたら、肝臓は悪化に気付きにくい臓器だから手遅れになる可能性が高い。
そうなってからでは遅い、もっとお母さんと旅行など行きたかったと後悔するからと言いました。
するとお母さんは、「自分だってお酒を飲むのをやめたい、辛い」と言いました。
そしてそれからしばらく、ほとんどお酒を飲まずに一週間ほど過ごしました。
でも、やはりまた完全に理性がなくなるほど泥酔し、周囲に迷惑をかけました。
アルコール依存症は、自分で治すことができません。
専門家の指導、監督と治療が必要です。
なぜなら、アルコール依存症の人にとって、アルコールは麻薬と同じ。



アルコール依存症の人の脳は、アルコールを「飲めば飲むほど気持ちいいもの」と認識しているからです。
何年お酒を飲まずにいても、たった一滴飲んでしまえば、元に戻ってしまう病気だからです。
実際、あんなに頑張っていたのに、たった一週間でもとに戻ってしまったではありませんか。



ここで、私はお母さんに宣言したいと思います。

アルコール依存症の人がお酒を飲むと、どういう結果をもたらすか
その結果、起こったことについて、私はもう手助けをしません。
例えば怪我をしたとします。
でも私はもう、以前のようにあなたを助けることをやめます。
仮に酔っていて怪我をしても、治療もしませんし、通院や入院の送り迎えもしません。
自分の責任を、自分で負ってください。

どうしてかというと、私も傷ついているからです。
どのくらい傷付いているか、お母さんに想像がつくでしょうか。

あなたがお酒を飲んでいるのがわかると、酔ったおかあさんから電話がかかってくるのではないかと、電話のベルの幻聴が聞こえるくらいです。

お酒を飲んでいないときのお母さんは好きです。


ですが少しでも飲んだお母さんは、声ひとこと、わずかの体臭でも判断できます。
私はアルコールの回っている状態のお母さんを、はっきりと憎んでいます。
アルコールの影響がなければ
あんなに理知的で、情に厚く、判断力に富んだ優しい人間なのに、
アルコールが入ってしまうと、私を呪い、周囲を呪い、自分の過去を呪い、罵倒し、粗暴に振る舞い、まるで別人のようになってしまうからです。
そしてアルコールが抜けると、それを忘れるのです。


間違えないでほしいのは、
私はアルコールの影響がないお母さんは好きです。

弟も、きっとそうです。

しかし、私も弟も、あなたの大好きなアルコールによって、昔も今も
とても傷付いています。
周囲の人はみな、お母さんの体を心配しています。

お母さんが専門病院へ行き、アルコール依存症と戦うと決心するなら、
私も最後のつもりで手伝います。ほかの人の協力も仰ぎます。
神様にもお祈りします。

でももし、この訴えをみとめず、
私や周囲の人に心配や迷惑をかけていることを否認し、
これまで同様に、お酒に頼る生活を続けたいというのなら
私は、自分の精神と家庭を守るためにお母さんから離れます。

これから先、きらちゃんが死んだ時。おばあちゃんが死んだ時。
今のままのお母さんなら、半年間くらいはしょっちゅう泥酔して、手の付けられないくらいお酒を飲むはずです。
私には、そういう状態のお母さんを支えられません。


血のつながった母に対して、ここまでの決意をしたことの背景に
どの程度の苦悩がわたしの内にあるか、
アルコールの影響のない状態なら理解できるかもしれないと思います。
でももし、理解できないならそれもきっとアルコール依存症のせいでしょう。


最後にもう一度念を押しておきますが、
アルコールを飲んでいないお母さんは、好きです。

だからどうか、冷静に自分の状態を考えて、専門病院に行ってください。