Notes
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窓の外に映る湯景色を眺めていると、いつかの処刑場の景色が思い出された。
目を閉じ、その景色を強く意識する。
同じような雪景色の所々に窪みがあった。罪人達の生暖かい血が雪を溶かした痕だ。
処刑したばかりの死体の首からは、まだ湯気が出ていた。
奥には大きな穴があり、死体が積み重ねられていた。雪と同じ白さを持った死体達は沈黙を守りながら、互いに硬くなった腕や足を絡ませていた。冬が始まる前に、死体を入れるための大きな穴を掘る。冬になると地面が固くなり、掘るのがかなり困難になるからだ。
雪、そしてあの死体達と同じ程に白いドレスには、点々と赤い染みが付いていた。それを指先で撫でると、乾いた血が粉となり、パラパラと地面に散った。この頃はまだ白かったのだなと頭の片隅で思った。
血が雪を溶かし、凍った死体達が絡まり降る雪に埋もれていく。その景色はとても美しく感じられた。だが何かが足りなかった。苦悶がにじむ悲鳴だろうか。いや、この場所でなら、悲鳴はどこまでも響き、さらに美しく感じられただろうが、そういった類いのものではなかった。
考えている内に、自然と横を見ていた。そうだ足りなかったのはーーー
「コンベアさん!」
私は赤と黒が入り混じるドレスを着て、窓の前に置かれた椅子に座っていた。外の雪景色には死体など一つも無い。
「何回も呼んだんですよ」
不満を若干顔に出している、雪のように白い髪を持つこの男は、私が所属している魔塔の建築士、通称オヤカタだ。彼が付けている首輪は基本、外出時以外私の鎖と繋がっている。かといって、私が彼を奴隷のように扱っているわけではない。最初こそ彼に付けさせるために用意したのだが、彼は恥じらいも抵抗も見せず、それどころか何故か感謝の言葉を叫びながら、自ら付けた。その理由を聞いたことはあるが、理解出来たことは無かった。
「あら、ごめんなさいね。それで、何か用かしら」
「用って…今日はクリスマスの買い物に行く予定でしたよね?」
あっ、と小さく声を上げる。彼は溜息を吐き、
「コート着て、早く行きましょう」
私の後ろに回り、腕を通させる。こうしてみると、執事と主人の関係のようだが、それは私達の関係を表すにはふさわしくない気がした。
* * *
雪が装飾の光を反射し、街全体が幻想的な光に包む。
クリスマスが近いと言うこともあり人がかなり多かったが、まるで私達を囲む壁があるかのように大抵の人は避けて通った。
「スキルって探索以外でも発動するんですねぇ…」オヤカタが感心するように言う。
「制御出来ないのが難点ね」
右目に付けた眼帯のせいか、私に会う人間のほとんどが怯える。通り過ぎていく人々がいちいち視線を向けてくるが、視線を返すとサッと正面を向き、興味なんて微塵もなさそうな振りをする。
思えば、オヤカタが私の右目について尋ねてきたこと無かった気がする。
過去の仕事について少しだけ、自分から話したことはあったが、彼はそれ以上聞こうとはしなかった。
「あ、コンベアさん、着きましたよ。」
着いた雑貨店は派手な外装をしており、扉にはサンタの帽子を被ったポテンのパネルがあった。
「そういえば、何を買うつもりなの?」
クリスマスの買い物だとは言っていたが、詳細は聞いてなかった。魔塔関係で必要な物は全てゼニー商会から買うことが出来るので、少なくともそれ以外のものということしか分からなかった。
「ああ、装飾品を買いに来たんですよ。塔の皆へのプレゼントは全て作るつもりですが、ビーズとかの細かい物は買った方が早いですからね」どこか虚ろな目をしながら言う。
思い出してみると、去年のこの時期も彼は夜遅くまで工作室にこもっていた気がする。建姫達も各々で彼へのプレゼントを考えるか作っていたため、そのことに気がついている者は少なかったが。
去年の彼からのプレゼントは何だったか。確か、私と似た格好をしている兎の人形だった。受け取った時、私には似合わないと思ったが、今まで縁がなく、寒さを感じるだけだったクリスマスが温かく感じられ嬉しかった。
今年は私からも送ろうとは思ってはいるものの、何を送るかが決まらずにいた。無難に手袋や靴下が良いだろうか。首輪を喜んで付ける彼だから、手錠か足枷の方が良いのかもしれない。だが、どう考えてもクリスマスにふさわしいとは思えなかった。
「どっちが良いと思いますか……ってコンベアさん?」心配そうな顔を近づける。
考えに耽ってしまったらしい、はっと顔を上げる。
彼の顔を思わぬほど近くにあり、つい退いてしまった。暑くなり始めた顔を隠すように、マフラーに顔を埋める。
「大丈夫ですか?風邪でも引きましたか?」
「だ、大丈夫よ。早く買って帰りましょう」
誤魔化すことに気を取られ、プレゼントのことなど、すっかり忘れてしまった。
* * *
クリスマス三日前、止むことを知らない雪はさらに積もり、全員が雪かきに奮闘していた。オヤカタはやはり夜遅くまで作業をしていたらしく、目元に隈を浮かべながらぎこちない動きで雪かきを行っていた。
あれから、彼へのプレゼントを考え続けたが何も思いつかなかった。とりあえず、血のように表面がてらてらと赤く輝いている苺のケーキだけは予約した。
それをプレゼントと言い張る手もあったが、クリスマスだから形だけでも何か贈ることよりも、思いがこもった物を贈りたいという気持ちが自分の中で強くなっていた。それがどういった感情によって強くなっているのかは、自分でも分からなかった。
扉付近と街に続く道の雪かきが終わり、全員が塔内に引き返す。
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