Notes

『「こちらがヒナちゃんの瓶詰めになります。詰めたのは一週間ほど前になりますね。プリザーブドフラワーが一緒に入っているので、インテリアとしてお部屋に飾っていただくのもおすすめです。」
あなたがその分厚いガラスで出来た瓶を手に取ると、瓶の中でうつむいていたヒナちゃんは泣き腫らした目であなたを見上げた。』
https://shindanmaker.com/629382
からの妄想




「ちょお兄ちゃん、ビン詰め、買おて行きません？」

大阪、アメ村。様々な露店がひしめくこの場所で、俺は今映画の撮影をしている真っ最中だったのだが、なにやら機材トラブルがあったらしくすっぽり1時間空いてしまうことになった。じっと待っているのも退屈で、暇つぶしにと久々にアメ村の路地裏を散策していた。そんな時、ふとキャッチらしきお兄さんに声をかけられた。

「瓶詰め？なんなんそれ」

普段ならアメ村の路地裏という怪しげな場所にある露店のキャッチなんてスルーするのだけれど、ついその商品の中身が気になり応じてしまった。ぼったくられたらどうしよ。

「ビン詰めはビン詰めですわ。ほら、こっちがヒナちゃんの瓶詰め。詰めたんは一週間ほど前です。プリザーブドフラワーが一緒に入っとるんで、インテリアとして部屋に飾おていただくのもおすすめです。」

思わぬところでヒナちゃん、という最近呼んではいないが聞き慣れた言葉が現れ言葉に詰まるうちに、分厚いガラスでできたビンをお兄さんから渡される。
そうっとビンを手に取りガラス越しに中身をのぞいてみると、なにやら精巧にできた人形のようなものが水気のない花と一緒に入っていた。

「ヒナちゃん」

その人形があまりにもあいつに似ていたから、今では口にすることが少なくなった名前をつい人形に向けて呼んでしまった。
そうしたら驚くことにうつむいていた人形がぴくりと震え、泣きはらした目でこちらを見上げて来たのだ。

「僕、これもらいますわ」

俺は、泣き腫らして幼く見える目元とうるうるとした瞳に、昔の、かわいらしくどこに行くにも俺の後ろをついてきていたヒナちゃん、を見てしまったのだった。

「まいどあり、これから『ヒナちゃん』は兄ちゃんのもんです」

俺は、ヒナちゃんを買ってしまった。