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最初はちょっとした興味だった。
昔から顔の良さにだけは自信があった。じゃなきゃこんな仕事を選んでいない。俺は幾多の言葉でこの顔を褒められて生きて来たし、道を歩けばすれ違う女が頬を染めるのを背中で感じた。だから当たり前に自分より顔面が劣っている女を抱こうとは思わなかったので、世間一般で言うところの「面食い」に育った。でも一定の恋人は作らない。だって俺を見てくれる女は数多にいるのに一人に構っていたらもったいないからだ。
年上だったら少し隙を見せて可愛げのある後輩を演じればいいし、年下だったら親しみやすくもどこかミステリアスなギャップをみせればいい。女というのはギャップに弱い生き物だ。
だけど最近そんな生活にも飽きて来ている。どれだけの気品を持った女でも、少し微笑むだけでただの欲に飢えた獣に成り下がってしまう。そんな時にふと「男同士」というワードが頭をちらつき、欲の張った俺に今まで同性同士の経験がなかったことに驚きつつ、軽い気持ちで手を伸ばした。
そうしたら驚くことに、信じられないほど気持ちが良かった。とんだ番狂わせ、今まで幾多の女を抱いて来た俺が、抱くより抱かれる方がいいだなんて。
それからは共演する人する人食いまくった。撮影期間中や地方ロケ中なら堂々と一緒にホテルイン出来るし、そもそも男同士な以上そういう関係だと思う人間はそうそういない。
そして女は男のギャップに弱い生き物だとは知っていたが、男が男のギャップに弱いとは知らなかった。いつもはしっかり者の面を見せておき、打ち上げ等々酒の席で庇護欲をそそる気の抜けた顔を見せる。その後はもうホテルに直行だ。
そんな事を繰り返していると、どうしても落とせない人に出会うもの。女でも男でもここは例外がないらしい。そういう人に限って激しかったりするんよな、なんて思いつつ熱を込めた視線で彼の実家の酒が入ったグラスを持つ筋張った手を見やる。すらりとしているのにどこか男らしいこの手に愛されたら、俺は一体どうなってしまうんだろう。近頃こんな事ばかり考えてしまう。グッとグラスの中身を飲み干す喉仏が目に入ったせいでずくりと下腹が熱くなるのを感じて、慌ててグラスに残った酒を煽った。

さすがは酒屋の息子、酒には強いようで、共に飲んでいたスタッフたちが徐々にギブアップしていってもなお飲み足りないらしく、一緒に部屋で飲まないかと誘って来た。
自分も飲み足らないのでと快諾した後に、これはもしやチャンスなのではと気が付く。彼が酔ったところで既成事実を作ってしまおう。
そんな魂胆も知らず、嬉々として俺を部屋に招いてくれた。

蔵之介さんの部屋の椅子に枝垂れるように座る。彼を先に酔わせるつもりだったのに、俺の持つグラスの中身が少しでも減るとすぐに酒を継ぎ足してくるもんだからみるみるうちに酔いが回ってしまった。そんな俺に対して彼はまだまだ余裕があるようで、今にも瞼が落ちそうな俺の介抱をしようとしてくれている。
「裕、大丈夫か?」
少し飲ませすぎたわ、と眉を下げて顔を覗き込み、水の入ったコップを渡してくれた。大丈夫ですと返して、コップを受け取る。受け取るときに指先が触れて、忘れかけていた色欲が呼び起こされた。セックスしたい、この人と。
「どうする?部屋戻るか?」
受け取った水を飲む。冷たい水が熱を持った体に心地いい。熱を持っているのは酔ったせいか、それとも。
「風呂、入りたいです」
舌足らずに甘えた声でそう言うと、困ったように微笑んだ。俺は今、蔵之介さんを困らせている。
「あかん、危ないて」
「じゃあ、一緒、入りましょ」
お願い、とためらう彼に矢継ぎ早にねだれば、しゃあない、とバスルームへと手を引いてくれた。


白いボタンが指の間を滑る。酔いが回ったせいかYシャツのボタンが上手く外せない。そんな俺を見かねて蔵之介さんの手がボタンを外してくれた。
ぷつりぷつりと綺麗な手が一つずつボタンを布の間を通していく。全て外し終えると、Yシャツを袖に通したまま今度はベルトを外し始めた。
決してそういう意味を持っている訳ではないのに、カチャカチャと鳴るベルトにどうしようもなく興奮した。


     
 
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