Notes![what is notes.io? What is notes.io?](/theme/images/whatisnotesio.png)
![]() ![]() Notes - notes.io |
窓から差し込む朝日を感じながら一人の兵士が目覚める。
「くぅー……ちっまだ起床時間前じゃねえか。隙間風のせいで目が覚めちまった」
兵士……ギュランは悪態は吐くが陽の昇り具合から考えて起床時間が近いのも間違いない。
二度寝すれば寝惚け眼で点呼を受けることになり、口うるさい指揮官に怒鳴られることは間違いない。
ギュランは起きあがり、部屋に置かれた水瓶に取りつき冷え切った水を飲む。
「……うるせぇよ」
「殺すぞ……うぅん」
だが周りの兵士にとってはそれさえも朝の心地よい眠りを妨げる騒音であり、即座に文句が飛ぶ。
「へえへえ、外に出ますよ」
ギュランは溜息をついて冷たい外気に身を晒した。
駐屯地は気の荒い男ばかりが集まっているだけあって和気藹々の雰囲気はないが張り詰めた緊張感も今は無い。
そもそもキサット周囲に駐屯地が作られたのは炎痘病を押さえ込む部隊を受け入れる為だった。
その炎痘病も今は通常の態勢で十分となり特に私軍が果たすべき役目はない。
またリバティースとヴィルヘルミナとの戦争に領主であるハードレット辺境伯が援軍に赴いた際には報復や牽制の侵攻も考えられると緊張状態になった。
兵数も次々と増員され、リバティースに行かなかった私軍兵士のほとんどがこちらに配置されたと言って良かった。
しかし侵攻はなく、張り付いた部隊は警戒体制のまま延々と待ちぼうけるだけであった。
結局そのまま戦争はリバティースの降伏で終了したのだ。
「援軍に行った奴は災難だったが……俺達には関係ないわな」
建屋の外に出たギュランは声を気にせず大きく伸びをする。
しかし寒さが身を打ち、すぐにまた背中を丸める。
死んだ兵士には気の毒だが、この戦いの結末に特に思う所はない。
それがハードレット領民のみならずゴルドニアの民ほとんどの意見だった。
この場所を守る――ただ陣地に籠っているだけで守っているかは疑問だが――ギュラン達の興味も南ユーグリアの動向よりもいつラーフェンに戻れるのか、次の遠征娼婦はいつ来るのか、に移っていた。
その時、ワッと怒声が聞こえる。
続いてドタドタと駆けまわる足音、そしてバケツか何かを蹴っ飛ばした金属音だ。
「夜番の奴らの喧嘩か? 朝っぱらから笑える奴らだ」
ギュランは笑いながら声のする方に向かう。
寒空の下でただ座っているよりも喧嘩騒ぎを見る方がまだ面白そうだったからだ。
だが騒ぎは彼の期待を遥かに超えていた。
「緊急連絡だ! 南から武装した騎兵の集団が接近中! 直ちに戦闘態勢を取らせろ!」
「敵は早いぞ! 伝令のすぐ後ろまで迫っている! 時間が無い!」
馬を飛ばしてきた伝令が疲れて座りこみ、その周囲で指揮官達が騒いでいる。
「おいおいマジかよ……なんも聞いてないぞ」
戦争は終わったはずだった。
また始まるにしても上から連絡ぐらいはあるはずだ。
槍も鎧も持っていない事に気付いた兵士が宿舎へ戻ろうとすると見張り台にいた兵が声を張る。
「南から所属不明の騎兵が多数! 土煙りで総数わかりません!」
「嘘だろ……伝令が今来たばっかりだろうが」
小走りだったギュランは全力疾走で宿舎に転がりこむ。
「一体何の騒ぎだ……どわぁ!!」
寝惚け眼で悪態をつく同僚のシーツを引っ張って床に落す。
「全員起きろ! 敵だ、なんだかよくわからんがとにかく敵が来たぞ!」
「敵!? どこから?」
「バカ野郎! モルトが攻めて来るはずないだろ。南ユーグリアだよ!」
ドタバタと騒ぎながらも十分に訓練されている彼らは鎧を着込み、得物を持つ。
五分もしないうちに完全武装の二十人が建屋の前に並ぶ。
そこに見るからに慌てた指揮官が寝癖をつけたまま走り込む。
「総員準備は……できているな! よし、俺達は駐屯地を出て敵を迎え撃つ。敵を足止めして時間を稼ぐのだ!」
「時間稼ぎ?」
「いや、キサットの南にも部隊がいくつもあっただろう? まさか全部やられたのか?」
指揮官は兵士達の疑問には答えない。
というよりも彼自身もそこまで状況を把握している訳では無いのだ。
「とにかく俺達のやることは一つだ。長槍を突き出して敵を防げばいい。すぐに援軍が来る」
兵の顔に不満や疑問はあるが、脅えはない。
しょっちゅう戦争をしているハードレット軍の兵士は経験豊富な者が多い。
生き残るには秩序を持って動くことが必要だと身をもって知っているのだ。
ギュラン自身も命を賭けた戦闘を十度は経験している。
戦闘の前に小便をちびるような事はもう無い。
駐屯地の外に出るとすぐに敵が視認出来た。
「うわ……」
「マジかよ……」
同僚達が口汚く罵り、舌打ちをする。
立ち上る土煙りと無数の馬蹄の音が攻撃が本格的な規模だと教えてくれていた。
さすがに困惑したギュランだが、続々と駐屯地から出て来る味方を見て僅かに安堵する。
領主の私軍は千差万別、権威付けのお飾りだったり夜盗もどきの集団だったりだがハードレット軍は王国軍にも引けは取らない精鋭だ。
若干の堅苦しさはあるが、戦いになれば隣の味方が頼りになるのは何よりありがたい。
「対騎兵陣を組めー!」
指揮官の号令を受けて一団は腰を落し、ざっと長槍を突き出す。
逃げ出す者は誰もいない。
騎兵突撃の威力は凄まじい。しかし長槍隊が乱れなく陣を組めば十分に阻止できる。
恐ろしくとも慌てて背を向けることが最悪の選択肢だと全員が知っていた。
「距離二〇〇m! 一五〇m! 構え崩すな!」
指揮官は声を張り上げるが他の兵士は無言か小声で呟くのみだ。
いつの間にかギュラン達の後ろには弓兵や軽歩兵が集まっている。
彼らは騎兵の突撃を長槍の後ろで凌いだ後、足を止めた敵に矢を射かけ、横腹に飛び込んで倒すのだ。
「俺達の役目は敵を食い止めることだ。絶対に抜かれるなよ!」
「おう」
「言われなくても」
勝利や戦功を置いても敵に突破され、全体が崩れれば戦死の可能性は跳ねあがる。
一兵士の身としても全力で敵を食い止めねばならない。
「敵至近……来るぞ!!」
指揮官の怒号と同時にギュランは腰溜めに構えた長槍を思い切り突き出す。
金属がぶつかる轟音とはっきりした手応えがあった。
軍馬の嘶きが悲鳴に変わり、長槍がひん曲がるなんともいえない感触が伝わる。
「おらあ!」
槍を右に流すと喉元を貫かれ力を失った敵の軍馬が倒れ込み、騎兵が頭から投げ出される。
「おのれ!」
地面に転がった敵が腰の剣を抜くが、周りの味方が長槍を振り降ろすように叩きつけると敵は身動きが取れない。
そこを狙い澄ましてクロスボウが放たれ、敵は顔面にボルトを受けて絶命する。
周りでは他にも数騎の敵が仕留められている。
「次が来るぞ! 構え直せ!」
ギュランは曲がった長槍を投げ捨て、予備に持ち替えて再び構える。
そして衝撃と怒号、悲鳴……しかし今度は数が多く、敵は長槍の隙間を潜り抜けるように押し寄せる。
「させるか!」
そこに矢が降り注ぎ、横合いから軽歩兵が飛びこんで来る。
足を止めている敵相手ならば軽歩兵の方がより有利に戦える。
クロスボウも次々と放たれ、敵騎兵はほとんど一方的に損害を出していく。
「突っ込んで来るだけか。こりゃ勝てるな」
隊の誰かが呟き、周囲の味方も同調するように笑みを見せた。
そこに鈍い風切り音と共に異物が飛びこむ。
「へ?」
長槍を構えていた味方の胴に杭が突き刺さり、そのまま後ろへ跳ね飛ばされたのだ。
「大弩……?」
大弩の直撃を受けて仲間が一人殺された。
経験豊富な兵はそれが何か即座に理解する。
理解できないのは何故敵から大弩が射かけられたのかだ。
大弩は攻守どちらにも使える優秀な攻撃兵器だがいかんせん大きく重いので簡単に持ち運びできない。
敵が騎兵を連ねて駆けてきた事を考えれば到底持っているはずがない。
「ぐげっ」
「ぎゃっ」
だが現実に仲間は次々と巨大な矢の餌食になっていく。
慌てて伏せたギュランの頭上を大矢がブンと音をたてて通過していく。
倒れたついでに目を凝らして彼はその正体に気付いた。
「おいおい……あれは俺達のもんじゃなかったのかよ。戦車だ、戦車が来るぞ!」
大弩を積んだ屋根の無い馬車。
大きな車輪がたてる独特の音を間違えることはない。
「なんで奴らがアレを持ってるんだ!」
「ええい、なんとかしろ!」
長槍隊は矢や大砲などの射撃武器には非常に弱い。
両手で長い槍を構えるのだから身を守る盾がないし、横一列に並んで敵を待ち受ける陣形は狙いやすいことこの上ないのだ。
次々と襲い来る大矢は騎兵突撃に一歩も引かなかったギュラン達の隊列を引き裂いて行く。
そして隊列が崩れたのを見て戦車が突進してくる。
「く、来るぞ! 阻止、阻止だ!」
指揮官が一際でかい声で叫ぶ。
「バカ! 戦車を見た事無いのか? あいつの進路を塞いでも――」
ギュランが言い終わる暇もなく、阻止を試みた一人が脳天を大矢で撃ち砕かれ、横合いから騎手を狙おうとした兵が車輪についた刃で腹を抉られる。
戦車は陣の中央を突破していき、おまけとばかりに後ろ向きに大矢を放った。
陣の穴が空いたのを見た敵騎兵が殺到する。
「一旦後退――!」
指揮官の怒号を別の指揮官が遮る。
「敵の一隊が左翼から後ろへ迂回した! 包囲されるぞ!」
「敵が右翼後方に移動しつつある。動ける隊はすぐに向かえ!」
ギュラン達は顔を見合わせる。
バカみたいな突撃が単なる目くらましだったことを理解したのだ。
「今の一瞬で迂回されたのか?」
「これ……やばくないか?」
平原で騎兵に囲まれるのは歩兵にとって最大の悪夢だ。
守る事も逃げることもできなくなる。
さすがに全員が動揺を隠せなくなった時、間延びしたやる気の無い命令が下される。
「これは厳しいねえ。仕方ないから計画通りに逃げて籠ることにしよう。訓練通りにやってくれればなんとかなるさ」
颯爽と馬に……ではなく、馬車の荷台で転びそうになりながら命令を出すのはトリスタンだった。
「おお、占領地暫定長官殿!」
「バカ、それは前の肩書だ。今は防衛司令官殿だ!」
「お前こそ古い! 南部防衛軍長官殿だ!」
指揮官達の声にトリスタンは頭を掻きながら溜息をつく。
「なんでもいいよ、僕だってよくわかってないんだから。そもそもあの人は毎回適当に肩書きつけてるからね。そのくせ一字でも違ったらセリアちゃんとマイラさんが怒るんだよなぁ……こんな理不尽があっていいのかなぁ。はぁ、いつの間にか軍人みたいな立ち位置になっているし、こんなことなら最初からリバティースに亡命……それも今となっては……どうしてこんなことに……」
ぶつぶつ言い出したトリスタンだが、目の前の戦況が待った無しな事に気付いて咳払いを一つ落す。
「じゃあ作戦を発動するよ。作戦Aだね、全て計画通りに動いてくれればいい――うわっ!」
計画の発動を宣言したトリスタンだが馬車馬が動いたせいで荷台が揺れて転び、なんとも情けない宣言を残して後方へ下がって行く。
「おいおい、なんだありゃ」
「いよいよ俺達もおしまいか……」
ギュランと仲間は悲壮な決意を固めるが反比例して指揮官の顔は明るい。
「総員西へ転進。丘の上に登れ!」
周りの隊も全てが迷い無く動き出す。
「東の丘へ――」
「北の川辺――」
「二つに分かれて林へ――」
全ての部隊が一見バラバラに潰走するように、それでいて軟体生物のように複雑な動きだ。
「な、なんだこの陣形は……まるでばらばら……」
突然全体の陣形が変わって困惑する敵をよそに、味方は小さな集団に分かれて地形的要衝に吸い込まれていく。
「細かく分かれて我々の進撃を妨害するつもりか? なんとも嫌な場所にばかり陣を敷きやがって」
「だが馬鹿だな、小集団になったなら一つずつ踏み潰すだけだ!」
敵は包囲する必要もないとばかりに各所の味方に襲いかかる。
ギュラン達の隊がいる丘にも敵騎兵が全速力で突撃し……ひっくり返った。
低い藪に隠された杭が馬の足を貫いたのだ。
「な、なんだこれは……! 木杭? 注意しろ、速度を落とせ!」
敵は慌てて速度を落とし、足元を確かめながら進む。
そこに矢の雨が降り注ぐ。
丘をゆっくり登る敵はギュラン達の隣に陣を構える味方から良い的になっていた。
そして丘の上にいる林に籠る味方へ襲いかかろうとする敵はギュラン達から丸見えになる。
細かい指揮もタイミングも必要無い。撃って下さいと言わんばかりに眼下を通る敵に矢を射かけるだけで効果は抜群だ。
「これは……」
ギュランは思わず声を出す。
同じことがそこら中でおきていた。
ある陣地の死角を他の陣地が埋める。
一つの陣地を狙えば他二つの陣から好き放題に撃たれる。
ならば他二つを先に攻略しようと進めばまた他の陣の射程に入り、更に罠まで待ち構えている。
「こりゃすごいな。まるでここいら全部まとめて一つの城だ」
「いや、城より厄介かもしれんぞ。見てみろよ」
味方が指差す先では敵が損害覚悟のごり押しで一つの陣地を強襲していた。
さすがに辛抱できずに味方が陣地を捨て逃げ散るが、すぐ後ろの丘に集まって再び陣地を作る。
敵は陣地の占領に一瞬沸くが、冷静に見れば状況は何も変わっていない。
逃げた味方が新しく陣を構えた場所もまた無視しては進めない場所なのだ。
目を丸くするギュランの後ろから間延びした声が聞こえる。
「あー君たちもこれ以上は無理と思ったら逃げてもいいさ。ここを捨てたらあそこの林、そこも捨てたら向こうの盆地、その次は……命令書に十個ぐらい書いてあると思うからその通りにしてよ」
トリスタンは緊張感の無い声で言いながら溜息をついてお茶を探し、さすがに前線には無いと気付いて嫌そうな顔で水筒から水を飲むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これは本格的な侵攻とは考えられません」
ラーフェンを飛び出し、キサットへと向かう道中でレオポルトが言い放つ。
「そんな馬鹿なことがあるか。一万の騎兵で攻めて来て侵攻では無いだと?」
襲撃の報告を聞いた時、俺は新しく入ったメイドを抱いていた。
田舎から出てきた初心な少女の処女を正に引き裂こうとした時にこいつがノックと共に入って来たのだ。
しかもレオポルトはこの襲撃を予測していたのか、リバティースでの戦いで乱れた編成を立て直し、いつでも出撃できる体制を組みあげていた。
そのせいで猶予なく即座の出撃となり、結局彼女の処女を奪うことはできなかったのだ。
先っちょまで入っていたのにな。
「ラーフェンで捕縛した敵の間諜はリントブルムや山の民への食糧輸送を調べておりました。以前の交戦経験も踏まえて敵は弓騎兵が山の民からなる特殊な部隊であると気付いていることでしょう」
「別に気付かれたからどうとも思わないが」
正体に気付いたからと言って矢に当たらない訳ではないだろう。
「敵はリバティースでの戦いで弓騎兵が大きく損耗したことも知っております。つまりハードレット卿と山民の間に軋轢が生じている可能性を考えているはずです。戦いを仕掛ければはっきりとわかりますから、これは強行偵察の一貫と言うべきですな」
一万で強行偵察とは無茶にも思える。
「俺と奴らの仲が悪くなったか確かめる為に戦いをふっかける? そんな馬鹿なことをするのか?」
さすがに無いだろうと笑うが、レオポルトの表情は真剣なままだ。
こいつが笑っているところなど見た事が無いが。
「それだけ敵は弓騎兵とハードレット卿を脅威と感じているのでしょう」
いずれにせよ、とレオポルトは続ける。
「例え主目的が強行偵察であってもこちらが脆いとなれば一気に浸食してくるでしょう。こちらがヴァンドレアから奪った地域は厳密にはあくまで暫定的な占領状態です。ヴァンドレアを併合した南ユーグリアが正統を主張することは十分考えられます」
普段ならば暫定とは言え俺が占領した場所を巡って戦えば国家間の戦争だ。
いかにヴィルヘルミナとはいえリバティースを呑み込んで損害の回復もできていないだろう今、ゴルドニアに仕掛けるとは考えにくい。
「しかし今のゴルドニアにその余裕も意思もないことは明らかです」
「……」
レオポルトの言う通り、王の目はロサリオ襲撃の犯人にしか向いていない。
さすがに本国領土を攻撃されれば戦争だが、扱いの微妙な占領地でのいざこざでどこまで動くかは怪しい。
「いずれにせよ、事は占領地内で終わらせねばなりません」
「それはそうだ。せっかく開発された自領まで荒らされたら大損害だ。アドルフがまた禿げるぞ」
そこにセリアが顔を出す。
「南ユーグリアの騎兵戦術は巧みで強力です。奇襲をうけた歩兵隊が持ち堪えられるでしょうか?」
俺は笑ってセリアの頭を撫でる。
「その為にトリスタンを行かせたんだ。大丈夫だろう」
「彼には自信があるようです。問題ないでしょう」
俺とレオポルトが同時にそう言うと何故かセリアが少し膨れる。
どうしたのだろうか。
「俺達も急ごう。山の民の離反など無いと教えてやろうじゃないか」
俺はチラリと弓騎兵の方を見る。
大きな損耗にも関わらず、敵の侵略と聞いて弓騎兵達は再び大挙して集まってくれた。
その忠誠心に疑問はない。
「……」
レオポルトは何か考えていたようだが、結局何も言わなかった。
そして俺達は前線に到着する。
「おい、あれ味方じゃないのか!?」
「間違いないぞ。たった四日で来たのか!?」
「もう大丈夫だ!」
小さな砦や陣地から歓声が上がる。
どうやら敵の突破は阻止できていたようだ。
守る味方の歓声に応えながら前に出るがその数が多い。
砦だけでも二〇近く、簡易陣地も含めたらいくつあるのかもわからない。
「守ると言えばでかい城に大量の兵と思っていた」
「その守り方では機動力に優れる敵に対処できません。城と主要な砦を迂回して北上されてしまえば追撃は間に合いません。見る限り、領域そのものを防御陣地と見なして小刻みに部隊を動かし、それを各所に築いた小規模な砦と貯蔵物資で支える防衛戦術を取っております。これは大軍の蹂躙には耐えませんが、小規模で機動的な部隊の移動や補給を十分に妨害できます。特に騎兵部隊にはかなり有効と思われます」
「小規模な砦ならそのうち落されてしまうのでは……」
それほど金もかけていない木製の簡易な砦だからな。
「砦は小規模で陥落させることそのものは容易です。しかしそれはそれで構いません。目的が我々の到着まで持ち堪えることですから、攻城戦で時間を潰すならばそれも成功と言えます」
要は奴らの騎兵による急襲を食い止めれば良いのだ。
リバティースでももし彼らの奇襲を止められていれば戦局はわからなかった。
緒戦の大敗に最後まで足を引っ張られたのだ。
「一帯に展開するこの守り方なら迂回も包囲も難しいですね。一つ一つを落すのは簡単そうですが……あ、あの丘の陣が落されました」
マイラが指を差す先で敵が味方を丘から追い落とした。
勝鬨をあげる敵だったが周辺の陣地から牽制されてうまく追撃はできていない。
更に強引に前に出た騎兵が突然棒立ちになったりひっくり返っている。
トリスタンのことだからなにか罠でも仕掛けていたのだろう。
その隙に散り散りに逃げたように見えた味方がスルスル集まって再び陣を組む。
結局敵は一〇〇m程前に進めただけで戦局には何の変化もない。
「陣を構えているのも騎兵には嫌な場所ばっかりですね……傾斜がついていたり低い立木が多かったり」
最初から騎兵隊を想定して綿密に場所を定めていたのだろう。
今の円滑な動きを見る限り、最初から陣を落された時の行動が決まっているとしか思えない。
敵にすれば攻めにくい上に苦労して陣を取っても、こちらは何食わぬ顔で数歩下がってまた最初からだ。
単純な損失以外にも相当頭に来ているだろうな。
「トリスタンはよくやっている。決着をつけてやろうじゃないか」
俺は長剣を引き抜き、レオポルトが陣の変更を命令する。
弓騎兵は横に広がって一斉斉射からの突撃準備に入った。
そしてセリアが下を向いて二度三度何かを呟いた後、顔をあげて叫ぶ。
「総員、敵を蹴散らして我らの強さを示せ! 突撃――!」
ああ、このセリフを練習していたのか。
セリアが俺の代わりに号令をかけることは多いがたまに噛むからな。
セリアの『としゅげき』も可愛らしいのでやる気は出るのだが本人が悶えてしまう。
今回はうまくいったので満足げに剣を突き出して加速していく。
「セリア、マイラ、俺の後ろにいろ。お前達の役目は指揮だ、決して一番前に出るなよ」
言いながら俺もシュバルツを加速させる。
出撃前に飼育係の女が仔馬に乳をやりながらこいつの無事を祈っていた気がするが今はどうでもいい。
「北から敵の援軍! くそ、もう来たのか!」
「数……多い! 少なくとも騎兵五千――せいぜい二千じゃなかったのか! 諜報部の間抜け共め!」
「攻勢中止、集結しろ。こっちが各個撃破になるぞ!」
散らばって各陣地に当たっていた敵部隊からラッパの音が鳴り響いて集結していく。
この対応の早さはさすがだ。
「むしろ好都合です」
レオポルトが敵が対応するのを待ってから指示を出し、陣形が再び変更される。
同時に味方の歩兵から火矢が四方八方に飛び、地面に刺さって赤い煙をあげる。
矢の落ちた場所には罠があると教えているのだ。
俺達は騎兵突撃としては奇怪な凹型陣形で敵に向かう。
両翼の弓騎兵が前に出ながら左右に大きく開き、中央には少し遅れて俺や護衛隊、槍騎兵が並ぶ。
これだと最初に敵に当たるのが両翼になってしまい、その面積も少ないのでせっかくの衝突力を生かせないように見える。
しかも薄く広がっているので突破の勢いも望めない。
一方の敵は一般的な騎兵陣である中央が先頭の三角形だ。
このままぶつかれば逆にこちらの中央が危険に見えるだろう。
だがそれはこちらが普通の槍や剣を持つ騎兵だったらの話だ。
「中央に攻撃を集中! 放て!」
両翼の弓騎兵は自分の正面の敵を無視し、中央に向かって一斉に矢を放つ。
左右からの矢が正確に敵陣の先頭ど真ん中に集中していく。
敵兵の怒号と絶叫が響き、遠目にも敵は次々と落馬していく。
敵は弓騎兵の存在を既に知っているが、ただでさえ矢に弱い騎兵が二方向から撃たれては分かっていてもどうにもできない。
両翼の弓騎兵は素早い斉射を三度行った後はさっと身を翻して逃げる
敵の両翼は慌てて追いかけようとするがその余裕は与えない。
俺を含めた弓騎兵以外の騎兵は十字砲火で乱れた敵中央に向かって突っ込むのだ。
「た、隊の三割が負傷している! 入れ替えて正面の戦力を――」
「斃れた馬が邪魔で隊列が乱れている! こんな所に突っ込まれたら……」
近づくにつれて敵が動揺しているのがわかってくる。
「「「「オオォォォォォ!!」」」」
衝突の瞬間、俺に続いて味方全員が吠える。
ちなみにセリアも可愛らしく吠えているが、レオポルトの奴は無視だった。
先頭に立つ俺は長剣を槍のように突き出してまず正面の敵を貫く。
「お、お前は……ぐわっ!」
敵はなんとか盾でいなそうとしたが、突進の勢いも合わせた突きは生半可な力と技量では防げない。
鋼鉄製だろう盾はひん曲がって吹き飛び、鎧のど真ん中を長剣が貫く。
最初から串刺しにすると剣が使いにくくなるのだが、今は関係ない。
「エイギル様に続け!」
隣には護衛隊と槍騎兵がいるからだ。
俺の突撃から僅かに遅れて彼らも一斉に敵に突っ込んだ。
そこら中で槍が交差して騎兵が落馬、馬もバタバタと横倒しになっていく。
斃れる数は圧倒的に敵の方が多い。
陣を乱していたことも大きいが、何より騎兵同士の戦闘では攻撃側が圧倒的に有利だ。
一斉射撃で出鼻を挫かれて守勢に回ったのが致命的だ。
「中央が突破されるぞ!」
「追撃中止、中央の援護に回れ! 敵を逆に包囲してやるんだ」
だが敵も馬鹿では無い。
中央の戦況は俺達が圧倒的に有利だが、敵の両翼はまったくの無傷だ。
彼らが弓騎兵の追撃を諦めてこちらの後方に回る動きを見せたのだ。
「ケツをとられるぞ」
「数が……多い」
俺はちらりとレオポルトを見るが、何も言わない。
何も言わないなら心配はいらないのだろう。
同時に点在する味方の陣地から一斉に色のついた矢が上がる。
「歩兵が動きます!」
陣地に籠っていた歩兵隊がたちまち集結し始めたのだ。
数十名単位だった部隊がたちまち数百単位の陣を完成させる。
これも最初から合流する部隊を決めていたのだろう。
「こいつら今更!」
「ええい、迂回は中止! 足を止めるな包囲されるぞ!」
敵騎兵が左右からじりじり迫る歩兵を警戒してこちらへの包囲を諦める。
今が好機だ。
「一気に崩すぞ」
俺は串刺しにした敵を地面に投げ捨てて敵中に突っ込む。
「貴様ハードレット本人か! 陛下の為にこの場で――」
一騎目が言い終わる前に腹の上から横に両断する。
絶叫をあげる上半身と血飛沫をあげる下半身が別離する。
「この場で悪魔を討てばこの戦い勝ったも――」
二騎目の槍先を手甲で逸らしてこいつも腹で両断する。
互いの速度を乗せて鋼鉄製の鎧を叩き斬ったので激しい火花が散る。
「祖国よ俺に力を……いざ勝負――!!」
裂帛の気合と共に切りかかる三騎目と交差する。
敵の剣は俺の兜を掠めて衝撃と火花を残し、俺の剣は奴の胸から上を吹き飛ばした。
下半身のみとなった三騎は血飛沫を上げながらしばらく走り続けドサリと落ちる。
それぞれの馬は命を無くした主人を寂しそうに鼻でつついていた。
「えぇい!」
叫びと共に四騎目が突っ込んで来る。
しかし前の三人に比べれば弱々しい上に女の声だ。
「がぁぁぁ!」
俺は三人を両断した興奮のままに咆える。
「ひ! きゃー!!」
咆哮に驚いて彼女の馬が棒立ちになり、女騎兵はポトリと落馬する。
うむ、これでよし。
そこで足を止めて全体の戦況を見回す。
正面は圧倒的に有利で既に一部の味方は敵を突破している。
両翼の敵は歩兵隊に囲まれないように動きながら機会を狙っているようだが、弓騎兵も戻りつつある。
もうまともには動けないだろう。
「敵はすぐに後退するよ。しなければ全滅するからね」
いつの間にか隣にトリスタンの馬車がきていた。
「エイギル様を差し置いて馬車に乗るなんて……って貴方は馬に乗れませんでしたね」
マイラが大きな溜息を落す。
「そう文句を言ってやるな。トリスタンは良くやった」
俺がトリスタンを褒めると何故かセリアが膨む。
男にまで嫉妬するとは可愛い奴だ。
その時、敵を突破した槍騎兵から怒号が響く
何事かと目を向けると見慣れたフォルムが騎兵の間で暴れ回っている。
見覚えはあるが敵として見るのは初めてだ。
「あれは戦車――敵が戦車を使っています!」
あれは間違いなく俺達が使っている戦車だ。
大弩で狙い撃ち、並ぼうとする騎兵をクロスボウや車輪についた刃で撃破する。
「リバティースの戦いで放棄した物を鹵獲して複製したのでしょう。彼らも戦いに機動力を重視します。戦車は有効な兵器です」
「ぬ、盗まれました! 大変です!」
レオポルトが冷静に言いセリアが騒ぐ。
あの戦いからまだそれほど時間も経っていないのにもう複製して持ってくるとは行動が早いな。
「他人事みたいに言ってはいられんか」
こうしている間ににも味方の騎兵が次々とやられている。
戦局をひっくり返せるとは思えないが、勢いを削がれるのは面白くない。
「行くぞシュバルツ」
俺はシュバルツの腹を蹴って駆ける。
敵として出てきた戦車にどう対処するか迷っている味方を駆け分けて正面から向かう。
「借りるぞ」
途中で突っ立っている味方騎兵から槍を奪う。
もう戦いも終わりだから構わんだろう。
「次はあいつだ!」
戦車の狙いがこちらに変わる。
大弩が旋回してこちらを向き兵が狙いを定める。
俺は目を細めて発射の瞬間を見極め……シュバルツの腹を蹴る。
短く嘶いた奴は僅かに右に動く。それだけで大矢を避けるには十分だ。
耳元にブンと空気を切る音が聞こえるが衝撃は無い。
「く、外した! クロスボウで――」
残念ながらその時間は無い。
俺は投げやりの要領で戦車に向かって槍を投げる。
「ふん! 鋼鉄製の装甲にそんな槍など効かんわ!」
「だろうな」
だから車体は狙わなかった。
槍は回転する左車輪の隙間を通って地面に突き刺さる。
左の車輪に槍がつっかえて止まり、右車輪は動き続ける。
当然ながら派手な音を立てて戦車は横倒しになった。
「ぎゃぁぁ! ちょ、待って……うわぁ!!」
倒れた戦車に味方が群がり起きあがろうとする搭乗兵はたちまち滅多刺しにされて絶命する。
「側面に回らせるな! 正面からいけ!」
次の戦車が真正面から向かって来る。
さすがに全力疾走しながら大弩を打っても当たらないと思ったのか敵はすれ違い様に車輪の刃でこちらを仕留めるつもりなのだろう。
面白い受けてやろう。
「行け」
シュバルツはまったく動じずに真正面から敵に向かう。
そしていよいよ俺達はすれ違う。
「くたばれ悪魔め!」
敵兵の顔に残酷な笑いが浮かんだ瞬間、シュバルツが小さく跳ねた。
車輪と共に回転する刃が蹄鉄を掠めるのがわかるほどに最小限の動きだ。
だからこそ俺も安定して長剣を振るえる。
「ふん!」
互いの速度を乗せた全力の一撃は戦車の装甲ごと御者と搭乗兵と大弩、搭載されていた全てを吹き飛ばす。
鉄片と木片と肉片が飛沫となって飛び散った。
「普通の剣なら折れているな」
俺は長剣の健在を確認する。
今のをデュアルクレイターでやる勇気は無い。
少しでも角度を間違えてぽっきりいったらノンナに股間をぽっきりやられるだろう。
「おのれ――!」
おっと、落ち着いている暇はなかった。
次の戦車が反対側から迫る。
足を止めていたので勢いが足りない。今度は鋼鉄ごと両断とはいかないな。
俺は撃ち掛けられるクロスボウボルトを剣で弾き、狙いを定める。
「ここか」
迫る車輪の刃の動きを見定め、下からすくい上げるように長剣で受ける。
そして手応えを確認して一気に剣を引き上げた。
「ふん!!」
腕への負荷とシュバルツの揺らぎと引き換えに戦車の車体が持ちあがり、槍を投げた時よりもずっと派手にひっくり返る。
味方が止めを刺そうと近づくが、派手に転倒したので既に敵兵は全て息絶えていたようだ。
「せ、戦車を剣でひっくり返した……戦車がどれだけ重いと思ってるんだ……」
「やっぱり化け物だ! 先任の話は誇張されてなんかいなかった!」
三両立て続けに破壊されて敵は動揺してはいるがまだ逃げようとしない。
そこに空を暗くするほどの矢が降り注ぐ。
弓騎兵がこちらへの攻撃を開始したのだ。
いかに鋼鉄の戦車とは言え、数千の矢が立てつづけに降る中には留まれない。
撤退の号令が下ったのだろう。
敵の全部隊が雪崩を打って後退していく。
「とりあえず終わったな」
「敵は総数一万の騎兵と判明しました。こちらの歩兵は一四〇〇〇、騎兵も合わせれば数で圧倒的優位に立てます。最初の攻勢を凌いだ今、定石通りの攻めで追い払えるでしょう」
レオポルトが言う。
敵が自由に動けるなら歩兵がいくらいても迂回されてしまうだろう。
だが敵が守勢に回った今となっては兵力差が物を言う。
ここから先はミスなく無難に追いかけるだけでいい。
そしてレオポルトが詰まらないミスをするとは思えない。
「後はレオポルトとトリスタンに任せる。奴らを叩き出せ」
「え? もうレオポルトさんだけでいいよね? 僕は帰りたい――いや、やっぱりいるよ。うん、今は」
レオポルトがあえて数秒返事を遅らせる。トリスタンの文句は聞こえない。
「――叩き出す。で宜しいのですか?」
「叩き出すだけだ。それ以上仕掛けても勝算は無い」
これを機会に奴らの領地に侵入する……ことは俺も考えたが、ゴルドニア本国の混乱で援軍は得られない。となればリバティースの時と同じになってしまうだろう。
「王国のゴタゴタが足を引っ張りますな」
レオポルトが北を見て言う。
俺は何も答えなかった。
その後、予想外の展開は何もなかった。
レオポルトは順当に敵を押し返し、占領地の外に叩き出す。
敵は抵抗しながらも大きな損害を出して後退してゆく。新たな援軍が来ることもなかった。
占領地の損害はかなりのものだったが、開発済みの場所まで敵の侵入を許さなかったため領地全体から見れば微々たるものに過ぎなかった。
戦いの後、俺は王国へ南ユーグリアから侵攻を受けたことを報告。
当然国家間の問題となったが、俺の報告よりも早く南ユーグリア――正確にはヴィルヘルミナから王国宛てに使者が来る。
様々な外交儀礼に彩られた文の内容はこうだった。
『今回の行動は東部司令官の独断暴走』
『既に司令官は処刑済み』
『最大の謝罪を示す』
添えられていたのは司令官とその同調者の首だ。
そして最後に一文が添えられている。
『今回の件に対して賠償の意思がある。暫定となっている占領地全体の処遇も含めて協議を行いたい』
だそうだ。
ちなみに俺の元にも事情の説明と謝罪の使者が来た。
言っている内容は概ね同じだったが一つだけ違うことがある。
「この度は個人的な怨恨から司令官が暴走し――」
謝罪する使者の代表が何故か若い美女だ。
しかもかなり乳がでかい。
「ヴィルヘルミナ陛下も此度の事件に心を痛めており――」
何故か代表以外の使者も皆、一様に美女だったのだ。
しかもどうしてか一様に俺好みの年齢と体付きなのだ。
「戦いでは領民も兵も死んでいる。すまんと言われても簡単に分かったとは言えませんな」
俺は厳しい声で使者を牽制する。
「エイギル様緩んでいます」
ノンナが俺の顔をいじる。
おっといかん。
「しかし今回の衝突原因の大本にはハードレット卿が旧ヴァンドレアから奪った土地の問題がございます」
使者の美女は頭を下げながら上目使いにこちらを見る。
どうして唇がそんなにプルプルしているのだろう。
「それは過去の話、今回の事とは無関係ですな」
俺が吐き捨てるように断ずると代表は脅えたように目を涙を浮かべる。
「緩んでいます」
セリアが俺の顔をいじる。
すまん、こいつの谷間が見えるんだよ。
「いずれにせよ貴国の外交官も交えて交渉させて頂きたく存じます」
「厳しい交渉になりますぞ」
頭を下げていた使者が立ち上がる。
彼女達は何故か深いスリットの入ったスカートを穿いており、立ち上がった拍子に太ももと下着が見えてしまった。なんて憎らしい肉付きだ。
「「緩んでいます」」
ノンナとセリアの手助けで俺は真剣な表情を保つ。
最後に今後の交渉に備えてラーフェンへの滞在を許可し、和解してはいないが最後に使者の代表と儀礼上の握手をする。
「お手柔らかにお願いしますね」
「そうはいきませんな」
言いながらも代表の軟らかい手を感じてどうにも強く出れないのだ。
そろそろレオポルト辺りから文句が出るかと思ったが何も言わない。
ただ使者が去ってから一言だけ。
「交渉の結果など一時的なことだ。すぐに全てひっくり返る」
とマイラに言っているのが聞こえたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
余談 クリストフ暴走
拷問官ツィーリアはクリストフのベッドで寝息を立てていた。
残酷にも彼女は虜囚唯一の安らぎである睡眠までも奪おうとしているのだ。
「ツィーリア? おかしいな、まだ一杯しか飲んでいないのに……」
クリストフは首を捻る。
彼女は時折食事と一緒に酒を持ってきて彼を共に飲むのだが、一度も酔っぱらうようなことはなかった。
それが今日は完全に潰れて寝込んでしまったのだ。
「すーすー……」
無防備に眠るツィーリアを見てクリストフは息を荒げる。
「あぁ、こうやってみると美人だよな……畜生、たまんないぜ」
クリストフは食事の前にも苛烈な拷問を受けていた。
ツィーリアは彼をうつ伏せにし、手足を執拗に揉み解したのだ。
「今日のマッサージはなんていうか……エロかった……股間にちょこちょこ手が当たるんだもんな……おかげでずっと大変なことに……」
「……うーん。すーすー」
ツィーリアがコロンと寝返りをうつ。
無防備に手足が開かれ、体の輪郭がはっきりと見える。
虐げられていたクリストフの理性が飛び、遂に反撃に打って出る。
「ツィーリアもう限界だ! すまん! すまーん!!」
クリストフは謝りながら彼女に飛び付く。
「うーん……」
「ツィーリア許してくれ! 俺も……俺も男なんだ! しかも溜まってるんだ!! うぉぉぉぉ!」
しばらくの間凌辱は続き、クリストフは脱力して満足げな顔でベッドに倒れる。
二つになった寝息はすぐに一つに戻る。
クリストフが寝たのを確認してツィーリアが起きあがったのだ。
彼女は凌辱された体を確かめ、忌々しげに呟く。
「え、終わり? 服の上からおっぱいに触るだけで満足したの? この状況なら普通犯すでしょ……」
ツィーリアがクリストフをつつくが完全に眠っている。
「うーん、ツィーリアすまん……俺はなんてことを……うーん、むにゃむにゃ」
「きわどいマッサージまでしてやったのに……どんだけ根性無いの。もういっそ私から襲ってやろうか」
クリストフを縛り上げて襲うのは容易い。
いや、縛らずともクリストフならば女の力でも容易に押さえ込めるだろう。
「……駄目だな。やっぱりこいつから襲わせないと。少しは男にしてやらないとどうにもならない」
ツィーリアは溜息と共にわざと脱がし易くしていた服を整える。
「あんた本当に男をぶら下げてるの……」
そして彼女が悪戯に軽く男の股間を踏もうと時だった。
「ツィーリア! 交代の時間だ!」
バンと扉が開かれる。
この部屋は拷問に使われる部屋なのでノックをする者などいないのだ。
「わっ!」
驚いたツィーリアが足が思い切り股間に落ちる。
ぐんにゃりした感触が彼女の足に伝わる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
突然の狼藉にクリストフがクの字に跳ね起きて絶叫する。
「し、しまった。本気で踏んでしまった」
「おお、拷問中だったか。お前のやり方は手ぬるいと思っていたが……股間を狙うとはなかなかだな。だが玉は急所だ、責め過ぎて死なせないように気をつけろよ。盛り上がっているようだから交代は後にする」
「うわぁぁぁ! うわぁぁぁぁ!」
「す、すまん! ほら酒をやるから落ち着け。なんならおっぱいを触ってもいいから落ち着け!」
クリストフの拷問は終わらない。
![]() |
Notes is a web-based application for online taking notes. You can take your notes and share with others people. If you like taking long notes, notes.io is designed for you. To date, over 8,000,000,000+ notes created and continuing...
With notes.io;
- * You can take a note from anywhere and any device with internet connection.
- * You can share the notes in social platforms (YouTube, Facebook, Twitter, instagram etc.).
- * You can quickly share your contents without website, blog and e-mail.
- * You don't need to create any Account to share a note. As you wish you can use quick, easy and best shortened notes with sms, websites, e-mail, or messaging services (WhatsApp, iMessage, Telegram, Signal).
- * Notes.io has fabulous infrastructure design for a short link and allows you to share the note as an easy and understandable link.
Fast: Notes.io is built for speed and performance. You can take a notes quickly and browse your archive.
Easy: Notes.io doesn’t require installation. Just write and share note!
Short: Notes.io’s url just 8 character. You’ll get shorten link of your note when you want to share. (Ex: notes.io/q )
Free: Notes.io works for 14 years and has been free since the day it was started.
You immediately create your first note and start sharing with the ones you wish. If you want to contact us, you can use the following communication channels;
Email: [email protected]
Twitter: http://twitter.com/notesio
Instagram: http://instagram.com/notes.io
Facebook: http://facebook.com/notesio
Regards;
Notes.io Team