Notes

「せらびっ、しぇらびびびっ！！」
「あー、うんうん、ちょぉっとまっててねぇ～」

足下にもふもふとあたるしあわせ。思わずうっとりと目を細めつつ、手早く刻んだものを小皿に移し、そっと足下に絡みつく青い毛玉を抱き上げてやる。

「ちぇらびびび！！」

たらりと口元からよだれを垂らして小皿を凝視しているのは、半月ほど前から飼い始めた青ゲルゲの幼体だ。特別に元気な個体を選んで購入したのだが、可愛くて可愛くて仕方が無い…毎日が本当に幸せで怖いくらいだ。
右腕にもるもる動く青ゲルゲを、左手に刻んだささみをジュレで和えた離乳食を持ってリビングへ戻る。小皿を一端テーブルに置いて、ソファへ腰掛けて用意しておいたタオルを膝にかける。膝の上で待ちきれないと言わんばかりにじたばたと暴れる青ゲルゲにそっと微笑みかけつつ、上を伸ばして小皿を持ち上げ、スプーンで離乳食を掬って青ゲルゲの口元まで運んでやる。

「ちぇらびっ、せらびびびびび！！　んんっ、んふぅー！　しぇらびー！！」
「はいはい、慌てないでゆっくりお食べ」

スプーンで掬った分を食べ終わってしまえば、次のひとさじを掬うまもなく、青いふわふわが小皿に飛び込んで行ってしまう。顔中で離乳食を食べる青ゲルゲの背をそっと撫でつつ、やはりスプーンはいらないのかなぁとも思うが、やはりスプーンを追う仕草や抱えて舐める仕草は捨てがたいのでやめるにやめられない。

「びぃぃ～…」

むちゃむちゃと涎と離乳食を飛び散らせながら食べていた青ゲルゲだったが、ようやく人心地付いたようで動きがぴたりと止まった。てちてちと舌を伸ばしては、自分が飛び散らせた餌を舐め取る姿も愛らしい。
スマートフォンを取り出して何枚か写真を撮った後に、膝に掛けておいたタオルの綺麗な部分を使用して、青ゲルゲの顔を優しく拭い座ってやった。

「さ、おなかいっぱいになったらちっちしようね？」

汚れた部分を内側に折り込んだタオルを再度膝に載せ、満足そうに身体の力を抜いていた青ゲルゲをころりと仰向けにさせる。用意した汚物入れのコンビニ袋のガサガサ音を聞きつけたのか、青ゲルゲはいやいやと短い手足や尻尾をばたつかせる。

「びぃぃ！　のん！　のんん～～～！！」
「だーめ、いいこいいこにしてねー」

優しく声を掛けつつ、専用にしている高級ローションティッシュを何枚か取り出し、そっと青ゲルゲの下腹部にある松のような模様をした部分の毛に埋めるようにして押し当てた。いやいやと身を捩っていた青ゲルゲだったが、何度か揉みほぐすように優しく擦ってやると、ぴたりと抗議をやめてピンと背筋を伸ばし、ふるふると僅かに身を震えさせはじめる。押し当てたティッシュを僅かに開いてみれば、しょろしょろと水流が溢れ出し、柔らかなティッシュを黄色に染め上げているところだった。押さえていた手を放しても動かないのを幸いに、またスマホを取り出して何度かシャッターを切る。

「ほーら、気持ちいいねぇ？」
「……びぃぃ～…」

たっぷりと尿を含んだティッシュを袋に捨てて、念のためもう一回。先ほどよりは勢いの弱い尿を受け止め、すっきりした青ゲルゲが擦られるのを嫌がって暴れはじめるまで続ける。ティッシュを新しいものに替え、おしりの穴も刺激をしてみるが、今は便意がないらしく嫌がるばかりだったので、早々に諦めて解放してあげた。

「しぇらび、びっ、びびっ♪」

ご機嫌でボール遊びをしている青ゲルゲを眺めつつ、ゴミを纏めて手を洗ってくる。戻ってきた私は、青ゲルゲの毛が太陽光にきらきら輝いているのを眺めつつ、パソコンをそっと立ち上げた。繋ぎっぱなしのケーブルの先端にスマートフォンを取り付け、昨日の昼から撮りためていた写真や動画をパソコンへと移す。

「え～と、今日のあさごはんはー…」

スマフォとの接続が終了したら、今度は記録だ。表計算のファイルを立ち上げて、今日青ゲルゲが食事や排泄をした時間、量なんかを細かく記載していく。最後が…排泄…午後13時20分、おしっこのみで約20g…っと。こうして見ると、食べる量や出す量で青ゲルゲの成長が明らかになって、幸せに更に拍車がかかる。

「記録も終わったし、次は～」

次にうきうきで立ち上げたのは、インターネットのブラウザだ。ブックマークをしておいたブログにアクセスし、管理画面から新しい日記を書き始める。普段は夜に書くのだけれど、今日はとても嬉しいことがあったので我慢ができなかったのだ。
カタカタと夢中でキーボードを叩き、先ほどスマフォから送ったばかりの動画を添付。そして書き込みボタンを押して確認画面へ……というところで、こちらを興味深そうに眺めている青ゲルゲに気付いたのだった。

「しぇらび？　びびびっ？」

何を言っているのかはさっぱり判らないが、小首を傾げる姿は犯罪的に可愛い…。萌え死にしそうになりつつ、わからないだろうなぁと苦笑しながら、青ゲルゲにパソコンの画面を見せてやった。

「ブログを書いていたんだよ。青ゲルゲちゃんの成長日記なんだよぉ」
「せらびび？」
「ん？　動画が気になる？　ちょっと待ってねぇ」

確認ボタンをクリックすれば、書いたばかりの日記は瞬く間に世界へ向けて公開された。切り替わった画面の「最新記事」へ飛べば、僅かなロード時間の後に、先ほど青ゲルゲが気にしていた動画が自動的に流れ始める。

『しぇらびぇ～～～…びびぃ、びぇぇ～～…』
『…聞こえますか？　青ゲルゲちゃん、悲しそうに泣いてますねぇ』
『びびびぃ、せらっ、せらびっ…しぇらびぇぇ！！』
『どうやら青ゲルゲちゃん、初めてのおねしょのようです！　とっても混乱しているみたいですね～』
『びびびぃっ！　ちぇらぴぴぃ！！　せらぶぇぇぇぇ！！』
『そろそろ青ゲルゲちゃんも刺激排泄卒業が近いのかもしれませんね、嬉しいような寂しいような…！』

ほんの一分ほどの動画。音声を背景におしっこまみれの布団と身体でめそめそと泣きじゃくる青ゲルゲちゃんの映像は、今朝撮りたてほやほやのものだ。ぽかんとして画面を見ていた青ゲルゲちゃんが、わなわなと震えながら私を見上げる。

「しぇ…しぇらびっ…！！？」
「あ、もうコメントついてる！　青ゲルゲちゃん、はじめてのおねしょおめでとうございます…だって！」
「びびっ…！？」
「青ゲルゲちゃんのこと見に来てくれる人がいーっぱいいるんだよ、この動画もみんな楽しんでくれてるみたい！」
「びびびぃーーーー！！？」

顔を赤くしたり青くしたりした青ゲルゲちゃんは、私の腕からもるもるっと逃げ出したかと思うと、ドリブルされているバスケットボールのごとく飛び跳ねたり転げ回ったりと、とてつもなくアグレッシブな動きを見せたのだった。全世界に公開されてるって聞いて、テンション上がっちゃったのかな？　青ゲルゲちゃんはやっぱり可愛いなぁ…あっ、このアグレッシブなやんちゃぶりも動画にしてみんなに見せてあげなくちゃ！

「青ゲルゲちゃんって最高に可愛いなぁぁぁ！！」
「のんのんのんのんんんんん！！　せらぶぇぇぇぇえええええ！！」