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「………」

右、左、もういちど右。神経を研ぎ澄まして警戒。何度も辺りを見回してから、そっと襖を閉める。珍しくがらりとした人気の無い部屋、僅かに逡巡してから、そっとズボンに手を掛けた。
ゴムのダルダルになったジャージは指をあっさりと飲み込み、さしたる抵抗もなく、内側のブリーフと共に腕の動きに合わせて引き下ろされていく。

「せらびびびびびびびび!!」

ぽろり。股間が露わになるが早いか、どこからやってきたのか、ペットである青い毛玉がいつも通りやかましく叫びながら一松へ向かって突進を仕掛けてきた。
飛びついてきた毛玉を抗わずに受け入れ、適当な壁を背にして腰を下ろす。ふんすふんすと肩口で鼻息を荒くしていた毛玉…カラゲルゲは、一松が腰を下ろした事によって床にほど近い位置になった、ゆるやかに勃ち上がった部分に気付いてワナワナと身体を戦慄かせる。

「しぇらび…び、びびびぃっ…!!」
「ああうん、はいどーぞ」

言葉と共に僅かに腰を前に出してやれば、カラゲルゲは文字通りに一松の股間に飛び込んでいった。もそもそと柔らかな毛に擽られる感覚に、一松は小さく息を呑む。ぐりぐりと強めに押しつけられる柔らかな体毛と、その向こうの意外と小さな本体の感覚に、無意識に腰がびくりと戦慄いた。
むらむらと煽られていく思考の中、隅の冷静な部分で一松は考える。…あぁ、俺って本当、クズでゴミだよなぁ…。






松野家で飼育されている青毛玉…通称カラゲルゲは、端的に言えば非常に頭の悪い個体だった。特に馬鹿なのが言語中枢で、こちらの言っていることは理解しているものの、己が発するのは基本「せらびー!」という鳴き声染みた単語ばかり。言語を操るというゲルゲ種にあるまじき事態である。
精々たまに「イチマ!」と呼んだり、「びゃぁぁ」と泣き崩れている事がある程度。嬉しくても「せらびー!」、ショックをうけても「しぇっ…しぇらびっ…!?」、掛け声に至っても「セラビビビビビビ!!」と、無意味なバリエーションばかりが増えていっている。

更には犬猫のように匂い付けにやけに執着しており、目新しいものや匂いの強いもの、洗濯したばかりのものなどは格好の餌食にされている。最初にちょっとした思いつきで悪戯を仕掛けたのも、そう、洗濯物を滅茶苦茶にされた日のことだった。
匂いに固執しているカラゲルゲに悪臭を嗅がせてやろう…と、その程度の思いつきで曝け出した股間へ、果敢にも匂い付け勝負を挑んだカラゲルゲ。思った以上に馬鹿だった。そして、匂い付けのために擦りつけられた身体が想像以上に気持ちよく、その感覚があっさりと癖になってしまった自分は、思った以上にクズでゴミだったのだと思う。

「ちぇらび、ちゅぴっ」

むにむにとした感覚が、思考の渦の中から意識を現実に引き戻した。カラゲルゲが敏感な先端に頬を擦りつけるようにしながら、満足そうに目を細めている。滲み出した先走りが顔面に絡みついているのを見てしまい、沸き上がった背徳感と興奮で息が詰まった。

「…ヒヒッ、くっせーだろ? 三日くらい、チンカス溜めておいたからなぁ…」
「しぇらびびっ! んふーっ! せらびび、びびびびびびびっ!」
(……舐めるのは…しねーかな、やっぱ)

小さな口が鈴口を掠める度に、そんな不埒な考えが浮かんでは消える。ゲルゲ種特有の大きな舌をカラゲルゲも一応持ってはいるものの、特に匂い付けを行っている最中はそれに集中しているためか、舌を出すことはほとんどない。下に舐め上げられるのを想像して、またじわりと先端へ滴が滲んだ。

「っあ~………も、ちょっと、…ィケ、そ…」
「イチマァ?」

ぶるりと背が震える。オナホ代わりに握り、押しつけて擦りつけて射精するのも勿論快感ではあるのだが、射精寸前まで好きにさせ、その緩慢な刺激に限界まで焦らされるというのもマゾ心を満たしてくれて素晴らしいと最近気付いてしまったのだった。果てしなく最低な思考であるのは自覚している。
快感を追おうと、無意識に目が閉じ、背が反り返る。その時だった。

「びっ…? しぇらび? …ビビビィッ!!?!?」
「え、あ、ちょっ、そこはっ!!」

亀頭の下、捲れ上がった皮の辺りにチクリとした刺激を感じ、慌てて目を開く。小さな手を皮の中に突っ込んだらしいカラゲルゲが、恥垢まみれの掌を掲げてふるふると震えているのが見えた。

「おい、待っ」
「しぇらびびびびびいいいい!!」
「~~~~!!?」

……止めるのは一歩遅かった。ドリルのように躍動する毛玉が、限界間近でひくひくと痙攣する裏筋を激しく抉る。呼吸が止まったのと同時に目の前にチカチカと星が瞬き、一瞬遅れて激しい迸りが尿道を駆け抜けていく感覚がした。
…あぁ、意図しないとこでイッちゃうとか堪え性なさすぎ。マジでクソゴミの極みだな罵られたい。

「びびびっ、せらびっ♪ びびびぃ♪」

僅かな賢者タイムの後に身を起こしてみれば、股間では白濁液に塗れた青い毛玉が自分の身体の匂いと、柔らかくなりつつある自身の匂いを嗅ぎ比べては歌のようなものを歌っている。意味は分からないがずいぶん上機嫌らしい。

「……あー、…洗わなきゃ、だな、色々と」
「びびっ!? イチマァ!? のんんんんん!」

股間できゃっきゃとはしゃいでいる青毛玉を鷲掴めば、たっぷり精液の染みこんだ毛の気色悪い感触がした。ものはついでだと、手にした毛玉で床に飛んだ飛沫もさっと拭う。手の中の毛玉が「ぎゃぁぁ」と可愛くない鳴き声を上げた。

「さーて……洗うか」
「びびぃ!? のん! のんのん、のーんイチマァ!」
「ノンじゃねーよ、松汁まみれで出歩かせられるわけねぇだろ」

「匂いが消える!」と風呂の度に騒ぐカラゲルゲを摘まみ上げ、下げていたジャージとパンツを引き上げながら、のっそりと風呂へ向かって歩みを進める。
めそめそと泣きながらいやいやと身を捩る青い毛玉は、さしたる抵抗もできないままに風呂場へ連行され、安く匂いのきついシャンプーでふわっふわになるまで洗い上げられたのだった。





…なお後日、十四松が何気なく言い放った「カラゲルゲ、なんか最近一松にーさんのちんこの匂いすんね!?」という発言で、兄弟全員に性犯罪者を見る目で見られるというご褒美を頂いた事と、どうやら「自分とちんこの匂いが同じになった=ちんこが自分の匂いになった」と勘違いしていたカラゲルゲが激昂し、自分の匂いの染みついたタオルやクッションを抱え込んで俺のズボンの中に籠城しようと試みた事はまた別の話である。
































     
 
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