Notes

モスクワで、かなり衝撃的な事件が起こりました。
エリツィン大統領時代第1副首相だったネムツォフさんが2月27日、クレムリンのすぐ傍で、何者かに射殺されたのです。

＜プーチン氏批判のネムツォフ氏、モスクワで射殺
CNN.co.jp 2月28日(土)10時1分配信
モスクワ（ＣＮＮ）　ロシアの反政権指導者ボリス・ネムツォフ氏が２７日夜、モスクワ中心部で何者かに射殺された。

ロシアの捜査当局が２８日に明らかにしたところによると、ネムツォフ氏はクレムリン近くの橋を渡っているときに車から数発の銃撃
を受けたという （その後、車から撃たれたのではなく、後ろから徒歩でつけてきた男に撃たれたと発表されました）

私がモスクワに住んでいるからといって、「誰が殺した？」「誰が殺しを依頼した？」なんてわかりません。
犯人以外でそれを「知っている」と断言する人は、ただ「想像」「主観」をいっているにすぎません。

私は、「クレムリン・メソッド」にも書いたように、「事実だけ」をお伝えしています。

では、私がこの件で皆さんにお伝えできる「事実」とはなんでしょうか？

1、ネムツォフさんってどんな人？
2、日本と欧米メディアの反応は？
3、ロシア政府とロシアメディアの反応は？
4、普通のロシア国民の反応は？
です。

では、はじめましょう。

▼ネムツォフさんてどんな人？

ボリス・ネムツォフさんは、確かに有名人でした。
ウィキペディアはこちら。（写真、経歴など）
↓
http://hec.su/xgK

3月3日に行われた葬儀には、1990～97年までイギリスの首相だったメージャーさんも来ていました。
故エリツィン大統領の夫人ナイナさんもいました。

とはいえ、普通の日本人は、ネムツォフさんのことをよく知らないでしょう。

簡単に経歴を。

ネムツォフさんは1959年、ソチで生まれました（オリンピックがあった場所）
1981年、ゴーリキー大学電波物理学部を卒業。
卒業後は、ゴーリキ電波物理学研究所に勤務していました。

1990年ロシア共和国人民代議員に当選、政治家の道を歩みはじめます。
1991年8月、ゴルバチョフ・ソ連大統領がクリミアで監禁される「クーデター」が起こりました。
これを主導したのが、当時のヤナーエフ・ソ連副大統領。
クーデターに反対して戦ったのがエリツィン・ロシア大統領でした（当時ロシアは、まだソ連の一部だった）

結果、クーデターは失敗し、エリツィンは一躍ロシアの英雄になった。

ネムツォフはこのとき、最初からエリツィン支持の立場を明確にした。
それでエリツィンに気に入られました。
1991年、エリツィンはネムツォフをニジニ・ノヴゴロド州行政長官（知事）に任命します。

ネムツォフが有名になるのはこの後です。

つまり、ソ連が崩壊し、ロシアが大混乱に陥っていく中、ネムツォフは、ニジニ・ノヴゴロドの改革を成し遂げた。
「ソ連は崩壊し、ロシアは大混乱しているが、ノヴゴロドだけは違う」と。

1995年12月、ネムツォフは、ニジニ・ノヴゴロドの知事選に勝利しました。
1997年3月、エリツィンはネムツォフをいきなり連邦政府の第1副首相に大抜擢します。このとき、なんと38歳。

1997年4月の世論調査で、ネムツォフさんは、「次期大統領にもっともふさわしい人」ランキングでトップに躍り出ます。

ネムツォフはこの頃、はやすぎる人生の頂点にありました。

しかし、ロシア国内の情勢が、彼の人生を暗転させます。

ロシア経済は、1991年12月のソ連崩壊後沈みつづけていた。
なんと1992～98年までにGDPが43％も減ったというのです。
そして、ロシア経済の底、98年8月の「デフォルト」が近づいていました。

当時のキリエンコ内閣は98年8月、デフォルトの責任をとって総辞職。
ネムツォフに責任はなく、エリツィンは新内閣で働くよう要請しましたが、彼は断ったそうです。

さて、ネムツォフが第1副首相をやめた翌年、ロシアには新しいリーダーが登場しました。
そう、FSB（旧KGB）の局長だったプーチンが、首相に任命された。

2000年、プーチンは大統領になり、ロシアの政治経済を私物化していた新興財閥軍団との戦争を開始します。

ネムツォフ自身は、1999年12月の下院選挙で当選。

しかし、彼が率いる「右派連合」の得票率は、わずか6.6％で4位という結果でした。
そして、03年の下院選挙で、得票率4％。
さらに07年の下院選挙で右派連合の得票率は、わずか1％で惨敗します。

なぜ、ネムツォフさんの人気は衰えたのでしょうか？

理由は彼が、西側の価値観、つまり「民主主義」「新自由主義」などを主張していたこと。

「なぜそれがダメなのだ！？」

日本人にはわけわかりませんね。

ロシアはソ連崩壊後、いわゆる民主派の人たちが改革を主導しました。

これが大失敗し、ロシア経済は壊滅的状態になった。

それでロシア国民は、「民主主義」と「資本主義」を憎悪するようになった。

ネムツォフさんがつるんでいたのは、この急進改革を主導した、ガイダル（元首相代行）、チュバイス（元副首相）などだった。

一方、その対極にいるプーチンは、新興財閥から石油部門をとりもどし、00～08年平均7％という、90年代からはありえない成長を実現しました。

00年代をとおして、プーチンは浮上し、ネムツォフさんは沈んでいった。

これが事実なのです。

しかし、盤石に思えたプーチン体制にも揺らぎが生じてきました。

まず08年にアメリカ発「100年に1度の大不況」が起こった。
09年、ロシアのGDPはマイナス7.8％。

また、12年にメドベージェフが去り、プーチンが大統領に復帰する際、全国で大規模なデモが起こりました。

プーチンは14年3月、クリミア併合で、再び人気を取り戻した。
そして、現在も80％以上の支持率を維持しています。

しかし、「制裁」「原油価格暴落」「ルーブル暴落」で危機が長引けば、国民の不満はたかまり、プーチン離れが進むかもし
れません。
ネムツォフさんは、それを見ることができません。

第1副首相になった翌年にデフォルトが起こった。

その後は、プーチンが現れたことで活躍の場がなく、影響力が徐々に衰えていった。

ようやく、プーチン体制に小さなほころびが見え、「これからまた俺の時代がくるか！」と希望を持った時に殺されてしまった。
不満な人生であったと思います。

しかし・・・。

＜モスクワ中心部で追悼デモ「７万人以上参加」
読売新聞 3月1日(日)23時6分配信
*
【モスクワ＝田村雄】モスクワ中心部では１日、野党勢力がネムツォフ氏の死を追悼するデモを行い、「公正な捜査」を訴えた。
主催者側は、ＡＦＰ通信に対し、「７万人以上が参加した」と述べた。
タス通信によると、警察当局の発表は約１万６５００人。

市民や活動家らは小雨が降る中、「銃弾は我々すべてに向けられたものだ」「言論は存在しないのか」などと書かれたプラカードを掲げながら、射殺現場に向けてゆっくりと行進。

参加した主婦エカテリーナ・チホミロワさん（２３）は「自由に発言しようとすれば、簡単に殺されるような国で良いはずがない」。
教員ウラジスラフ・バクチオノフさん（５８）は「政権にものを言うことが難しくなると心配している」と語った。＞

追悼デモに参加した人が1万6500人～7万人。
映像は↓
https://www.youtube.com/watch?v=f_MwS9ehW6I

これを見ると、いまだに人気があったのだな～と思います。

長くなりそうですので、つづきは次回にしましょう。