Notes

朝日新聞が従軍慰安婦に関する過去の自社報道を検証する記事を掲載したことで、慰安婦問題にあらためて注目が集まっている。経緯や論点、政府の対応、国際社会の動きなどをまとめた。

　▽強制性、軍関与認め謝罪　基金つくり償い事業

　Ｑ　朝日新聞の検証記事の内容は。

　Ａ　「韓国・済州島で強制連行した」などとする吉田清治氏（故人）の証言を１９８０～９０年代に１６回報じたが、虚偽だと判断して関連の記事を取り消すとした。吉田氏の証言に関しては、９２年ごろから識者らの間で信ぴょう性に疑問を投げ掛ける声が出ていた。朝鮮半島での強制連行があったかどうかは、慰安婦問題が浮上した当初の大きな論点だった。

　Ｑ　日本政府の対応や姿勢に影響するのか。

　Ａ　政府は、暴力を使って無理やり連れ去ったことを裏付ける証拠はないが、業者が募集する過程で「工場で働く」などとだましたり、朝鮮総督府の警察官が間に立って応募を強制したりと、本人の意思に反していたケースが数多くあったと判断した。１９９３年８月の河野洋平官房長官談話で、慰安所の設置や管理、慰安婦の移送といった面で日本軍が関与したことも認めて謝罪している。この時点で、吉田氏が言うような強制連行があったことを示す資料はないとしつつ、広い意味での強制性を認めている。従って、政府の対応などに影響が出ることはないとみられる。
１９９３年８月、従軍慰安婦問題について談話を発表する河野洋平官房長官＝首相官邸

　Ｑ　慰安婦の募集は東南アジアでも？

　Ａ　インドネシアやフィリピンでは、日本兵が無理やり連行して慰安婦にしたケースの記録も残っている。

　Ｑ　日本政府は被害者に補償したのか。

　Ａ　政府は、賠償問題は決着済みとの立場だ。ただ、村山政権は道義的な責任を認め、政府と国民が協力して償い事業をするとして９５年にアジア女性基金を設立した。基金は民間からの募金で約５億６千万円を集め、フィリピン、韓国、台湾の元慰安婦計２８５人に１人２００万円の「償い金」と首相のおわびの手紙を渡した。オランダとインドネシアを加えた４カ国・１地域に医療・福祉支援もした。

　▽日韓で問題化し談話作成　政府、検証後も見直さず
１９９１年１２月、日本政府に賠償を求め提訴した後、心情を訴える元従軍慰安婦の金学順さん（手前右）＝東京地裁

　Ｑ　政府が河野談話を発表した経緯は。

　Ａ　１９９１年８月に韓国で元従軍慰安婦が名乗り出た後、１２月には元慰安婦３人が損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。それを受けて日本政府は調査を開始。９２年１月に加藤紘一官房長官が記者会見で「（旧日本）軍の関与は否定できない。筆舌に尽くし難い辛苦をなめられた方々に、おわびと反省の気持ちを申し上げたい」と表明した。同月に訪韓した宮沢喜一首相も公式に謝罪した。
　しかし、納得しなかった韓国側は追加調査を要求した。日本政府は韓国側の要請で、元慰安婦とされる１６人に聞き取り調査を実施。その結果を踏まえ、９３年８月に河野洋平官房長官が軍の関与や強制性を認め、おわびと反省を表明する談話を発表した。

　Ｑ　河野談話を検証したのはなぜか。

　Ａ　談話作成に携わった石原信雄元官房副長官が今年２月、作成過程で韓国側と意見を擦り合わせた可能性があるなどと国会で説明したことがきっかけとなった。菅義偉官房長官は談話を検証する考えを表明。法律の専門家や女性有識者ら５人でつくるチームが検証結果をまとめ、６月に国会へ報告した。

　Ｑ　その内容は。

　Ａ　報告書では、韓国側と水面下で綿密に文言調整し、談話を作成した経緯が明らかになった。慰安婦募集の強制性を明記するよう求める韓国の意向を踏まえ、談話に「総じて本人たちの意思に反して行われた」と盛り込んだことなどを記述した。元慰安婦の証言の裏付け調査を行わなかったとも指摘した。ただ、菅官房長官は「政府の立場は何ら変わらない」として、談話を見直さない方針を明言している。

　▽米国や国連、解決促す　「甚だしい人権侵害」　

　Ｑ　世界は従軍慰安婦問題をどう見ているのか。

　Ａ　１９９０年代初めから特に日韓関係の重大な懸案問題となってきた。
　米国ではオバマ大統領が最近、「甚だしい人権侵害」との認識を示し、日本に解決に向けた取り組みを促している。２０１０年以降、韓国系米国人団体が中心となり慰安婦問題を象徴する像や記念碑の設置も相次いでいる。
　国連の人権条約に関する委員会も国家としての責任の認定や補償を求める勧告を出している。

　Ｑ　日韓の交渉の経緯は。

　Ａ　韓国政府は旧日本軍の関与と強制性を認めた河野談話を評価した。アジア女性基金についても当初は評価したが、元慰安婦の支援団体が民間募金による「償い金」支給に反発し、韓国政府も被害者が納得できる措置を求める態度に転じた。
演説する韓国の朴槿恵大統領＝３月１日、ソウル

　Ｑ　問題が再燃しているのはなぜか。

　Ａ　韓国の憲法裁判所が１１年、元慰安婦の賠償請求について政府が措置を講じなかったのは違憲と判断した。これを受け韓国政府は日本にあらためて交渉を求め始めた。
　昨年発足した朴槿恵政権は慰安婦問題を対日外交の優先課題と位置付け、日本に対応を要請している。

　Ｑ　国連での受け止めは。

　Ａ　９６年に慰安婦制度を「戦時の性奴隷」と定義した「クマラスワミ報告書」が国連人権委員会に提出された。報告書は「韓国・済州島で慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の裏付けのない証言を引用しており、疑問視する見方もある。

（共同通信）