Notes

未来

この曇り空のように、私の心は澱んでいた。
何度この力を使っただろう。未来が見えてしまう私の力は、私の世界から色を奪った。パチスロも当たらないと分かれば打たない。競馬やボートレースの結果や、明日の天気。なんだって見れた。この力は絶対なのだ。
…もうあと1回しか使えない。今までろくなことに使って来なかったのだ。もう使いたくもない。そう思った。

🎀「──でね、って聞いてる？」

🍋「あぁ、すいません。考え事してました」

彼女とは通学路がほとんど同じだから基本一緒にいる。一緒にいるからこそ、いつこの私の気持ちを打ち明けるか、ということをさっきからずっと考えている。
──心のどこかで望んでしまっていたのだろうか。モノクロで音のない映像が流れる。
そこには顔を手で被って泣き崩れている私と申し訳なさそうな顔で除き込むあなたが映し出される。……この力は…絶対…。
あぁ、見なければよかったこんなもの。見るんじゃなかったこんもの。ソワソワとしていた不安と期待が入り交じった感情は跡形もなく消え、絶望と恐怖だけが心を支配する。
思わず泣きそうになるが、必死に抑え込む。…せめて、この思いを伝えよう。いくらダメだとしても、この気持ちには変わりはないのだから。

🎀「──でさ、その人なんて言ったと思う！？……すずちゃん？」

🍋「……いえ、なんでもありません…」

声は震えていたと思うが、何とかそれだけを押し出す。そう言ってる間にも、普段さよならをする曲がり角に来てしまった。

🎀「…。」

🍋「…。」

訪れる静寂。冷めきった心と裏腹に、高鳴る鼓動がハッキリと聞こえる。

🎀「あのさ！」
🍋「あの…」

口を開いたのはほぼ同時だった。頭では後悔すると分かっていながら、弱った心が「先どうぞ」と口を操る。

🎀「…うん、ありがと……」

あぁ、なんて愚かなんだろう。残酷な未来が来るのをただ引き延ばそうと、無駄に足掻く今の私。未来は絶対で、変わることはないのに。

🎀「あ、あのね…イオリ、ずっと言いたいことがあってね……す、すーちゃんのこと、ずっとずっと大好きでしたっ！！！」

🍋「……へ？」

頭が理解しようとしない。というか理解出来ない。だって私は…。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。それでも、心が理解していた。この子は私のことを好きでいてくれたのだ。そう思った瞬間、必死に堪えてた涙が溢れ出す。

🎀「え！？ど、どうしたの！？」

少し困った顔をしてこちらを除き込む。私は羞恥心と、なんだか申し訳ない気持ちで咄嗟に顔を手で隠す。私の心配してくれたのか、陽だまりのように暖かい手が背中をさする。

🎀「…イオリじゃダメ…だよね……」

その言葉に思わず顔を上げ、背中をさすってた陽だまりを握る。私の顔は鼻水や涙でめちゃくちゃだったかもしれない。それでも、どうしても伝えなくちゃいけない言葉があるから──。

🍋「イオリさん！私も…ずっとずっと、ずうぅっとイオリさんのことが大大大好きでしたｯ！！！」

空が晴れてゆく。世界に色がついてゆく。さっきまでの曇り空が嘘のように。
彼女がまた、困ったような笑顔を浮かべる。

🎀「……ずるいよ…後出しなんて…」

私は握った彼女の小指を自分の小指に絡ませる。

🍋「ずるくたって、愚かだって、必ずイオリさんを一生幸せにして見せます！！！」

私は自分自身と、明るく照らし続ける太陽と、どれだけ願っても分からない未来に誓って力いっぱい叫んだ。 ～fin～